銀行におけるAI活用事例15選!効率化や売上UP、リスク管理など
近年、銀行業界では人工知能(AI)の導入が急速に進んでいます。従来の手作業中心の業務から脱却し、AIを活用することで大幅な効率化や顧客体験の向上を実現している事例が数多く生まれています。
本記事では、日本の主要銀行が実際に取り組んでいるAI活用事例を15件厳選し、4つの軸に分けてご紹介します。業務コストの削減、顧客体験の向上、不正検知・リスク管理の高度化、そして新規収益源の創出という観点から、各銀行の具体的な取り組みと成果を詳しく解説していきます。

業務コストを大幅削減した事例
この分野では、以下の3つの事例をご紹介します。
- 三菱UFJ銀行のAI-OCRによる紙帳票処理の自動化
- りそな銀行のRPA×ローコードによる大規模業務改革
- 北國銀行の音声書き起こしによるコンタクトセンター高度化
三菱UFJ銀行がAI-OCRで入力業務を70%削減した事例

項目 | 内容 |
---|---|
企業名 | 三菱UFJ銀行 |
業界 | メガバンク |
ビフォー | 支店で紙帳票を手入力(月200時間超) |
アフター | AI-OCR+RPAで入力時間を約70%削減 |
三菱UFJ銀行では、全国の支店で発生していた紙帳票のデータ入力業務が大きな課題となっていました。各支店では月に200時間を超える入力作業が発生し、人為的なミスも頻繁に起こっている状況でした。この問題を解決するため、同行はTOPPAN EdgeのAI-OCR(光学文字認識)技術を導入しました。
この技術の最大の特徴は、非定型の帳票にも高い精度で対応できる点です。自治体ごとに異なる書式や手書き文字にも対応し、読み取った情報をRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と連携させることで、勘定系システムへの自動登録まで実現しています。
導入後は入力時間を約70%削減し、データの精度も大幅に向上しました。現在では全国200拠点への展開が完了し、投資回収期間は18か月と高い効果を示しています。
りそな銀行がRPA×ローコードで年間130万時間を削減した事例

項目 | 内容 |
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企業名 | りそな銀行 |
業界 | メガバンク |
ビフォー | 手作業中心のバックオフィスで年100万時間のムダ工数 |
アフター | RPA×ローコードで年間130万時間削減 |
りそな銀行では、2017年からデジタル変革(DX)の取り組みを本格化し、「人員生産性30%向上」という目標を掲げました。従来のバックオフィス業務では、紙ベースの処理やシステム間の手作業による連携が多く、年間100万時間を超える非効率な工数が発生していました。
同行の特徴的な取り組みは、400名を超える行員を「市民開発者」として育成した点です。これらの行員が主体となってRPAロボットを内製し、現在では3,000本を超えるロボットが稼働しています。
さらに、Excel VBAとRPAを組み合わせた「ハイブリッド自動化」や、ローコード開発プラットフォームの活用により、適用範囲を大幅に拡大しました。結果として年間130万時間の削減を実現し、そのうち41万時間はローコード開発による貢献となっています。
北國銀行が音声書き起こしで後処理業務をゼロ化した事例

項目 | 内容 |
---|---|
企業名 | 北國銀行 |
業界 | 地方銀行 |
ビフォー | 通話内容を手書き転記・要約し品質チェック負荷大 |
アフター | PKSHA Speech Insightで後処理ゼロ化・品質可視化 |
北國銀行のコンタクトセンターでは、店舗統廃合により非対面チャネルが急拡大し、120名のスーパーバイザー(SV)とオペレーター(OP)が対応に追われていました。従来は通話内容を手書きでメモし、後から入力・要約する作業が必要で、品質チェックにも多大な時間を要していました。
同行が導入したPKSHA Speech Insightは、通話内容をリアルタイムでテキスト化し、自動で要約まで行います。さらに感情解析機能により、顧客の感情の変化を可視化し、クレームの兆候を早期に検知してSVにアラートを送る仕組みも構築しました。
これにより、オペレーターは通話に集中でき、メモ作成などの後処理業務は完全にゼロ化されました。また、応対品質の可視化により、オペレーター自身の改善活動も促進されています。
顧客体験を向上させ売上を伸ばした事例
この分野では、以下の4つの事例をご紹介します。
- 住信SBIネット銀行のAIスコアリングによる住宅ローン審査の大幅短縮
- ソニー銀行の生成AIによるメール回答業務の効率化
- auじぶん銀行の通話要約とVOC分析のリアルタイム化
- SBI新生銀行のAIチャットボットによる24時間365日対応
住信SBIネット銀行がAI審査で住宅ローンを大幅短縮した事例

項目 | 内容 |
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企業名 | 住信SBIネット銀行 |
業界 | ネット銀行 |
ビフォー | 本審査まで紙・対面で1〜3週間 |
アフター | AIスコアリングで住宅ローン審査をオンライン化し大幅短縮 |
住信SBIネット銀行では、従来の住宅ローン審査において、本審査までにアナログな審査プロセスがボトルネックとなり、1〜3週間の時間を要していました。低金利競争が激化する住宅ローン市場において、審査スピードが重要な差別化要因となっていたため、抜本的な改革が必要でした。
同行は日立製作所との共同開発により、AIスコアリングシステムを導入しました。このシステムでは600項目を超えるデータポイントをリアルタイムで解析し、与信判定を行います。特徴的なのは、複数の機械学習手法を組み合わせた高精度な与信モデルを運用している点です。
さらに、継続学習機能により、蓄積されるデータをもとにモデルの精度を向上させ続けています。この結果、住宅ローンの本審査プロセスが完全にオンライン化され、審査時間の大幅な短縮を実現。2024年には生成AIも組み込み、顧客向けユーザーエクスペリエンス(UX)のさらなる向上を図っています。
ソニー銀行が生成AIでメール回答時間を50%短縮した事例

項目 | 内容 |
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企業名 | ソニー銀行 |
業界 | ネット銀行 |
ビフォー | メール回答作成に平均7分/件・品質ばらつき |
アフター | 生成AIが回答案を提示し作成時間50%以上短縮 |
ソニー銀行では、お客さまからのメール問い合わせが増加する中、1件あたり平均7分の回答作成時間と、担当者による品質のばらつきが課題となっていました。特に繁忙期には回答品質の格差が顕著になり、顧客満足度への影響が懸念されていました。
同行はソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)と共同で、メール回答支援システムを開発しました。このシステムの最大の特徴は、ハルシネーション(AI生成文書の間違った内容)を抑制する独自技術を開発し、特許出願まで行っている点です。
過去のFAQ(よくある質問)データを学習したAIが、問い合わせ内容に応じて適切な回答テンプレートを瞬時に提示します。導入後は回答作成時間を50%以上短縮し、回答品質の平準化も実現しました。将来的には完全自動生成と検証フローへの移行も計画されており、段階的な自動化でリスクを最小限に抑えながら効率化を進めています。
auじぶん銀行が通話要約とVOC分析をリアルタイム化した事例

項目 | 内容 |
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企業名 | auじぶん銀行 |
業界 | ネット銀行 |
ビフォー | オペレーターが要約転記・VOC分析は月次 |
アフター | QuickSummary 2.0でリアルタイム要約+日次VOC可視化 |
auじぶん銀行のコンタクトセンターでは、問い合わせ件数の増加により通話ログが肥大化し、オペレーターによる手動での応対内容転記・要約作業が大きな負担となっていました。また、VOC(Voice of Customer:顧客の声)分析も月次でしか実施できず、迅速な業務改善やナレッジ共有に支障をきたしていました。
同行が導入したQuickSummary 2.0は、OpenAIのWhisperをベースとした音声認識技術と大規模言語モデル(LLM)による要約機能を組み合わせたシステムです。Amazon Connectと連携することで、通話内容をリアルタイムで解析し、CRM登録用やQA形式など、用途に応じた複数の要約フォーマットを自動生成します。
導入後は後処理時間を50%以上削減し、VOC分析も日次で実施できるようになりました。これにより、KCS(Knowledge-Centered Service)運用との連動でナレッジ改善サイクルが高速化され、顧客体験指標の改善施策に直結する仕組みが構築されています。
SBI新生銀行がAIチャットボットで24時間365日対応を実現した事例

項目 | 内容 |
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企業名 | SBI新生銀行 |
業界 | リテール銀行 |
ビフォー | 夜間・休日のFAQ対応不可、問合せ集中 |
アフター | KARAKURI chatbotで24/365自己解決を実現 |
SBI新生銀行では、FAQ(よくある質問)の整備不足により、メールや電話での問い合わせが集中し、特に夜間や休日は回答ができない状況が続いていました。これにより顧客対応コストが上昇するとともに、レスポンス時間の遅延が顧客体験(CX)の悪化を招いていました。
同行が導入したKARAKURI chatbotは、選択肢形式と自然言語入力をハイブリッドで処理できるAIチャットボットです。独自の自然言語処理(NLP)技術により、金融業界特有の専門用語も高精度で理解し、適切な回答を提示します。
リリース後、夜間の問い合わせの60%が自己解決されるようになり、24時間365日の顧客サポート体制が確立されました。さらに、蓄積される対話ログを継続的に解析することで、FAQコンテンツや業務フローの改善にも活用されており、顧客満足度の向上と運用コストの削減を両立しています。
不正検知・リスク管理を高度化した事例
この分野では、以下の5つの事例をご紹介します。
- 三井住友銀行のNLP脅威インテリジェンスによるサイバー攻撃の早期検知
- みんなの銀行のeKYC画像AIによる不正口座のリアルタイム検知
- 横浜銀行のAI不正・リスク検知サービスによる調査効率化
- GMOあおぞらネット銀行のAMLネットワーク可視化による関連口座抽出
- ゆうちょ銀行のAI画像分析による特殊詐欺被害防止
三井住友銀行がNLP技術でサイバー攻撃を数分で検知した事例

項目 | 内容 |
---|---|
企業名 | 三井住友銀行(SMBC) |
業界 | メガバンク |
ビフォー | 分散ログを手動相関、分析に数時間 |
アフター | NLP脅威インテリジェンスで数分検知 |
三井住友銀行では、グローバルに展開する事業に伴い、世界各地から発生する膨大なセキュリティログの分析が課題となっていました。従来は人手による相関分析に頼っており、脅威の検知まで数時間を要していました。高度化するサイバー攻撃に対し、SOC(Security Operation Center)の人的リソースでは限界があったのです。
同行が導入したのは、自然言語処理(NLP)技術を活用した脅威インテリジェンス解析システムです。世界中で発生するサイバー攻撃のレポートと、行内で発生するログデータを自動的にマッピングし、未知の攻撃手口にも対応できる仕組みを構築しました。
このシステムにより、従来数時間かかっていた脅威検知が数分で完了するようになり、誤検知率も20%削減されました。さらに、MLOps(機械学習運用)による自動モデル更新機能により、運用負荷を最小限に抑えながら、常に最新の脅威パターンに対応できる体制が整備されています。
みんなの銀行がeKYC画像AIで重複口座をリアルタイム検知した事例

項目 | 内容 |
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企業名 | みんなの銀行(ふくおかフィナンシャルグループ) |
業界 | デジタルバンク |
ビフォー | eKYC画像の人手照合で審査停滞 |
アフター | 顔・身分証AIで重複口座をリアルタイム抽出 |
完全スマートフォン銀行として展開するみんなの銀行では、eKYC(電子本人確認)画像の人手による確認作業が口座開設審査のボトルネックとなっていました。また、口座の乱立や不正利用のリスクを極小化することが、デジタルバンクとしての重要な課題でした。
同行はグルーヴノーツと協働し、クラウド基盤「MAGELLAN BLOCKS」上でディープラーニングを実装した画像解析AIシステムを開発しました。このシステムは、eKYC時に撮影される顔写真と身分証明書から特徴量を抽出し、同一人物による重複口座申請をリアルタイムで判別します。
検知された疑わしい口座は即座に行内CRMシステムに連携され、マネーロンダリングや振り込め詐欺対策の自動化を実現しました。導入後は調査対象件数を40%削減し、AIアラートによる即日凍結判断も可能となり、不正利用防止の大幅な強化を達成しています。
横浜銀行がAI不正・リスク検知で調査対象を30-40%削減した事例

横浜銀行「AI不正・リスク検知サービス for Banking」
項目 | 内容 |
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企業名 | 横浜銀行 |
業界 | 地方銀行 |
ビフォー | ルール判定のみで調査口座が多過ぎ |
アフター | NEC RiskTechで詳細調査口座を30〜40%削減 |
横浜銀行では、マネーロンダリング対策の強化が喫緊の経営課題となっていました。従来のルールベースによる一次スクリーニングでは調査対象となる口座数が膨大になり、精査にかかる負荷が大きな問題となっていました。
同行はNECと共同で「AI不正・リスク検知サービス for Banking」を開発し、2020年10月から本格稼働を開始しました。このシステムでは、数千万件におよぶ取引履歴を変化点検知アルゴリズムで分析し、異種混合学習により高リスク口座を自動的にランク付けします。
従来の画一的なルール判定とは異なり、口座ごとの取引パターンの変化を捉えることで、リスクの予兆段階での検知が可能となりました。導入後は調査対象口座数を30-40%削減し、担当者は重点的な確認作業に集中できるようになりました。また、検知精度の継続的な改善により、マネーロンダリング対策の実効性が大幅に向上しています。
GMOあおぞらネット銀行がAIでAML調査を即時可視化した事例

項目 | 内容 |
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企業名 | GMOあおぞらネット銀行 |
業界 | ネット銀行 |
ビフォー | AML調査は人海戦術、関連口座特定に数日 |
アフター | Vertex AI上のAIスコア+グラフで即時可視化 |
GMOあおぞらネット銀行では、オンライン専業銀行として不正送金リスクが高まる中、従来のAML(アンチマネーロンダリング)調査は人海戦術に頼っており、関連口座の「芋づる調査」に数日から数週間を要していました。顧客体験とセキュリティを両立させるためには、調査の迅速化が急務でした。
同行は自社のCTAオフィス主導で、Google CloudのVertex AI上にAMLシステムを開発しました。このシステムの特徴は、取引履歴をグラフデータベース化して口座間の関係性を推定し、AIスコアリングと組み合わせることで不正口座ネットワークを即座に可視化できる点です。
2023年の稼働開始後、疑わしい取引の検知精度が20%向上し、関連口座の抽出時間が大幅に短縮されました。継続学習機能により新たな不正パターンにも迅速に対応でき、AML担当者のドメイン知見を学習済みモデルに反映させることで、実用性の高いシステムを実現しています。
ゆうちょ銀行がAI画像分析で特殊詐欺を85%検知した事例

項目 | 内容 |
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企業名 | ゆうちょ銀行 |
業界 | リテール銀行 |
ビフォー | ATM前通話の見逃しで特殊詐欺被害 |
アフター | AI画像解析で通話動作を約85%検知し即警告 |
ゆうちょ銀行では、高齢者を中心とした特殊詐欺被害が後を絶たず、ATM前での携帯電話通話を見逃すことによる振り込め詐欺被害の拡大が深刻な問題となっていました。従来の注意喚起だけでは効果が限定的で、より実効性のある抑止策が求められていました。
同行は警察庁と協働し、SocioFutureと日本ATMビジネスサービスと共同でAI画像分析システムを開発しました。このシステムは、ATM前での通話動作のみを検知し、プライバシーに配慮しながら約85%の検知率を実現しています。
通話動作が検知されると即座に警告画面と音声が表示され、利用者に注意を促します。警告音声にはタレントを起用することで、注意喚起効果を高める工夫も施されています。2024年3月の発表以降、全国のATMへの段階的な展開が進められており、特殊詐欺被害の大幅な抑止効果が期待されています。
新規収益源を創出した事例
この分野では、以下の3つの事例をご紹介します。
- みずほ銀行のオンライン完結レンディングによる融資業務の革新
- 静岡銀行のData Ignitionによる潜在顧客スコアリングと成約率向上
- 山口フィナンシャルグループのnCino統合プラットフォームによる住宅ローン業務変革
みずほ銀行がオンライン完結レンディングで最短翌日融資を実現した事例

項目 | 内容 |
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企業名 | みずほ銀行 |
業界 | メガバンク |
ビフォー | 保証協会付融資は紙書類・対面手続き |
アフター | CE Loanプラットフォームでオンライン申込・即日確認 |
みずほ銀行では、中小企業向けの法人融資において、従来の紙ベースの決算書提出や対面手続きが必要で、審査だけで最短5営業日を要していました。中小企業の迅速な資金調達ニーズに応えるとともに、競合するフィンテック企業に対抗するため、融資プロセスの抜本的な見直しが必要でした。
同行はクレジットエンジンと協業し、「CE Loanプラットフォーム」を活用したオンライン完結型レンディングサービスを開始しました。このプラットフォームでは、会計ソフトとのAPI連携により、600項目を超えるリアルタイム財務データを自動取得し、AIによるスコアリングで与信判定を行います。
従来必要だった申込書類の80%が削減され、最短翌日での融資実行が可能となりました。さらに、保証協会とのAPI連携により、書類不備への対応時間とリードタイムの大幅な短縮を実現。顧客満足度の向上とともに、新たな収益機会の創出につながっています。
静岡銀行がData Ignitionで潜在顧客スコアリングと成約率向上を実現した事例

項目 | 内容 |
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企業名 | 静岡銀行 |
業界 | 地方銀行 |
ビフォー | クロスセルは経験則頼み、成約率低迷 |
アフター | Data Ignitionで潜在顧客をスコアリングし成約率向上 |
静岡銀行では、預貸率の低迷により非金利収益の多角化が重要な経営テーマとなっていました。従来のクロスセル(関連商品販売)は営業担当者の経験則に頼っており、提案効率が低く、成約率の向上が課題となっていました。
同行は2024年12月、りそなホールディングスとブレインパッドが共同開発したAI予測ツール「Data Ignition」を正式採用しました。このツールは、既存のCRMデータを投入するだけで、住宅ローンや投資信託などの商品ごとに潜在顧客をスコアリングし、最適な提案タイミングを予測します。
地域金融機関向けのSaaS型AIサービスとして提供され、複雑なシステム構築を必要とせずに導入できる点が特徴です。試験導入支店では住宅ローンの成約率が約1.4倍に改善し、営業効率の大幅な向上を実現しました。今後は法人融資や保険分野への拡張も予定されており、新たな手数料収益とレコメンド収益の創出が期待されています。
山口フィナンシャルグループがnCinoで住宅ローンを2営業日実行に短縮した事例

項目 | 内容 |
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企業名 | 山口フィナンシャルグループ |
業界 | 地方銀行持株会社 |
ビフォー | 住宅ローン申込〜審査に最短7営業日 |
アフター | nCino統合PFで2営業日・事務作業40%削減 |
山口フィナンシャルグループでは、住宅ローンの申込から実行まで20種類の申込書を手入力し、案件稟議システムへの再入力が必要で、最短でも7営業日を要していました。社員体験と顧客体験を同時に改善し、住宅ローン市場での競争力を高めることが急務でした。
同グループは米国発のクラウド統合融資プラットフォーム「nCino」を導入し、「Fit to Standard」の業務改革に取り組みました。このプラットフォームでは、営業・審査・契約のすべてのプロセスを1つのシステムで完結させ、データの再入力を完全に排除しています。
AIスコアリング機能と組み合わせることで、住宅ローンの実行期間を最短2営業日まで短縮し、事務作業も40%削減しました。さらに、クラウド標準機能の活用により、アプリケーション保守コストの40%削減も見込まれています。
この業務変革には若手行員が主導的に参画し、組織全体のDX文化醸成にも貢献。行内システムの30%削減計画とともに、大幅なコスト削減と収益性向上を実現しています。
銀行AI導入を成功させるポイント
AI導入を成功に導くためには、以下の5つのポイントが重要です。
目的を明確化してプロジェクトの方向性を統一する
AI導入プロジェクトで最も重要なのは、「何のためにAIを導入するのか」という目的を明確にすることです。コスト削減、顧客体験向上、リスク管理強化、新規収益創出など、達成したい目標を具体的に設定する必要があります。目的が曖昧なまま進めると、開発途中で方向性がブレてしまい、期待した効果が得られないケースが多発します。
成功事例では、三菱UFJ銀行の「月200時間の入力作業削減」やりそな銀行の「年間130万時間削減」のように、数値目標が明確に設定されています。プロジェクト開始前に関係者全員で目的を共有し、定期的に振り返りを行うことで、一貫した取り組みが可能になります。
データ品質を確保してAIの精度を向上させる
AIの性能は、学習に使用するデータの品質に大きく左右されます。不完全なデータや偏ったデータを使用すると、期待通りの結果が得られません。データの収集段階から品質管理を徹底し、欠損値の処理、異常値の除去、データの標準化などを適切に行う必要があります。
例えば、住信SBIネット銀行では600項目を超えるデータポイントを精緻に管理することで、高精度な住宅ローン審査を実現しています。

データ品質の向上には時間とコストがかかりますが、これを怠ると後工程で大きな問題となるため、初期段階での投資が重要です。
小規模PoCでリスクを軽減しながら効果を検証する
いきなり大規模なシステムを構築するのではなく、PoC(Proof of Concept:概念実証)と呼ばれる小規模な実証実験から始めることが重要です。PoCでは限定的な範囲でAIの効果を検証し、技術的な課題や運用上の問題を事前に洗い出します。
みんなの銀行では2か月のPoCを経て3か月で本番導入を実現し、ゆうちょ銀行では10か月の実証期間を経て全国展開を決定しています。PoCの期間は案件規模によって異なりますが、リスクを最小限に抑えながら確実な効果検証を行うことで、本格導入時の成功確率を大幅に高められます。
全社ガバナンスを整備してAI活用を組織全体で推進する
AI導入は技術部門だけの取り組みではなく、経営層から現場まで全社一体となった推進が必要です。りそな銀行の事例では、400名の行員を「市民開発者」として育成し、組織全体でAI活用を推進する体制を構築しました。
ガバナンス体制には、AI活用戦略の策定、予算配分、人材育成、リスク管理などが含まれます。特に金融機関では規制遵守が重要なため、コンプライアンス部門との連携も欠かせません。

経営層のコミットメントを得て、明確な推進体制を整備することが成功の鍵となります。
KPIを継続モニタリングして効果を測定・改善する
AI導入後も継続的な効果測定と改善が重要です。設定したKPI(重要業績評価指標)を定期的にモニタリングし、期待した効果が得られているかを確認します。効果が不十分な場合は、モデルの再学習やパラメータの調整を行い、継続的な改善を図ります。
GMOあおぞらネット銀行では継続学習機能により新たな不正パターンに迅速対応し、横浜銀行では検知精度の継続改善を実施しています。AIは「導入して終わり」ではなく、運用しながら育てていくものという認識を持ち、長期的な視点で取り組むことが成功につながります。
AIベンダーを選定するポイント
適切なAIベンダーを選ぶために、以下の5つのポイントを重視すべきです。
実績を評価して信頼できるベンダーを選ぶ
AIベンダー選定において最も重要なのは、類似案件での実績を詳しく評価することです。特に金融業界では、規制対応や高度なセキュリティ要件があるため、同業界での成功事例を持つベンダーを選ぶことが重要になります。
実績評価では、導入件数だけでなく、プロジェクトの規模、導入期間、達成した効果、継続運用の状況まで確認する必要があります。例えば、三菱UFJ銀行のAI-OCR導入事例では、200拠点への展開実績とROI18か月という具体的な成果が示されています。

過去の失敗事例とその対策についても聞き取りを行い、同様の問題を回避できるかを確認しましょう。
金融特化知見を確認して業界固有の課題に対応する
金融業界には他業界とは異なる特殊な要件があります。マネーロンダリング対策、個人情報保護、金融商品取引法への対応など、業界特有の規制や慣行を理解しているベンダーを選ぶことが重要です。
金融特化の知見を持つベンダーは、業界用語や業務フローを理解しており、要件定義から設計・開発まで円滑に進められます。横浜銀行とNECの共同開発事例や、みずほ銀行とクレジットエンジンの協業事例のように、金融業界での専門知識を活かした開発が成功につながっています。

ベンダー選定時には、金融業界での開発経験年数、専門チームの有無、関連資格の保有状況なども確認材料となります。
費用モデルを比較して最適な契約形態を選択する
AIプロジェクトの費用構造は、初期開発費、ライセンス料、運用保守費、従量課金など様々な要素で構成されます。自社の利用規模や期間に応じて、最も適した費用モデルを選ぶことが重要です。
例えば、小規模から始めて段階的に拡大したい場合は、SaaS型の従量課金モデルが適しています。静岡銀行のData Ignition導入では、SaaS従量課金により初期投資を抑えながら効果を検証しています。
一方、大規模展開を前提とする場合は、ライセンス買取型の方が長期的にはコストメリットが大きい場合もあります。費用の透明性も重要で、隠れたコストがないか事前に詳しく確認する必要があります。
長期サポート体制を確認して継続的な運用を保証する
AI システムは導入後の継続的な保守・改善が不可欠です。モデルの精度維持、新しいデータパターンへの対応、システムのアップデートなど、長期にわたるサポートが必要になります。
ベンダー選定時には、保守サポートの範囲、対応時間、エスカレーション体制、技術者のスキルレベルなどを詳しく確認しましょう。GMOあおぞらネット銀行の事例では、継続学習機能により新たな不正パターンに迅速対応できる仕組みが構築されています。また、ベンダーの事業継続性も重要な検討要素です。

長期的なパートナーシップを築けるよう、財務健全性や技術者の確保状況も評価対象に含めるべきです。
説明責任能力を評価してAIの透明性を確保する
金融機関では、AIの判定結果について顧客や監督官庁に対する説明責任が求められます。特に融資審査や不正検知などの重要な判定において、「なぜその結果になったのか」を説明できることが必要です。
説明可能AI(Explainable AI)の技術を持つベンダーを選び、ブラックボックス化を避けることが重要になります。ソニー銀行では、ハルシネーション抑制技術を特許出願するなど、AI の透明性と説明責任に積極的に取り組んでいます。
ベンダー選定時には、技術的な説明能力だけでなく、非技術者にも分かりやすく説明できるコミュニケーション能力も評価しましょう。
AI導入時の注意点
AI導入を進める際に特に注意すべき重要なポイントは以下の5つです。
データ偏りに注意して公平で正確な判定を実現する
AIモデルの学習に使用するデータに偏りがあると、特定の属性や条件に対して不公平な判定を行う可能性があります。特に金融機関では、年齢、性別、地域などによる差別的な判定は法的問題にもつながるため、細心の注意が必要です。
データ偏りの対策として、学習データの収集段階から多様性を確保し、定期的にモデルの判定結果を分析することが重要になります。住信SBIネット銀行の事例では、複数の機械学習手法を組み合わせることで偏りを軽減し、公平性を保っています。
また、継続的なモニタリングにより、運用開始後も偏りが生じていないかを監視する仕組みを構築する必要があります。
旧システム連携を確認して安定した稼働環境を構築する
多くの金融機関では、長年にわたって蓄積された基幹システム(レガシーシステム)が稼働しています。新しいAIシステムを導入する際は、これらの既存システムとの連携が重要な課題となります。
システム連携では、データ形式の統一、API仕様の調整、処理速度の最適化などが必要です。三菱UFJ銀行のAI-OCR事例では、RPAと勘定系システムの連携により、リアルタイムでの自動登録を実現しています。

連携テストは本番環境に近い条件で十分に行い、障害発生時の切り戻し手順も事前に準備しておくことが重要です。
モデルの説明性を担保して透明性のある運用を行う
金融サービスにおけるAIの判定は、顧客の生活に大きな影響を与える可能性があります。融資の可否や保険の引受判定などでは、「なぜその結果になったのか」を顧客に説明できることが求められます。
説明可能性を担保するためには、判定に影響する要因を明確にし、その重要度を定量化できるモデルを選択する必要があります。ソニー銀行では、ハルシネーション抑制技術を開発することで、生成AIの説明責任を向上させています。
完全なブラックボックスモデルではなく、ある程度の解釈可能性を持つアルゴリズムを選択することも重要な検討事項です。
規制対応を確認してコンプライアンス違反を防ぐ
金融業界は厳格な規制の下で運営されており、AI導入時も各種法規制への対応が必要になります。個人情報保護法、金融商品取引法、銀行法など、関連する法規制を事前に確認し、適切な対応策を講じることが重要です。
規制対応では、データの取扱方法、アルゴリズムの透明性、監査証跡の保管などが重要なポイントとなります。ゆうちょ銀行のATM画像分析システムでは、プライバシーに配慮した設計により、通話動作のみを検知する仕組みを構築しています。

金融庁のガイドラインや業界団体の指針も参考にし、最新の規制動向に対応できる体制を整備する必要があります。
運用後の保守を計画して長期的な効果を維持する
AIシステムは導入後も継続的なメンテナンスが必要です。データの変化に伴うモデル精度の低下、新しい業務要件への対応、セキュリティアップデートなど、様々な保守作業が発生します。
保守計画では、モデルの再学習頻度、性能監視の方法、障害対応手順などを明確に定める必要があります。GMOあおぞらネット銀行では、継続学習機能により新たな不正パターンに自動で対応する仕組みを構築しています。
また、保守作業を内製化するか外部委託するかの判断も重要で、自社の技術力や運用体制に応じて最適な選択を行うことが求められます。
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