漁業におけるAIの活用事例9選!漁獲量UPや流通・品質管理改善など
近年、AI(人工知能)技術の導入により、日本の漁業界は大きな変革を迎えています。従来の経験と勘に頼った漁業から、データに基づく科学的なアプローチへの転換が進んでおり、漁獲効率の向上や環境負荷の軽減、品質管理の強化など、様々な成果が報告されています。
本記事では、全国各地で実際に導入されている漁業AI活用事例を4つの観点から紹介し、それぞれの取り組みと成果を詳しく解説します。
なお、以下の記事ではAIの活用方法について網羅的に取り上げています。合わせてご覧ください。

収益・漁獲効率を向上させた事例

この分野では、以下の3つの事例を取り上げます:
- 東松島市がサケ定置網漁業で漁獲予測を実現した事例
- 小浜市漁協がサバ養殖で効率化を達成した事例
- くら寿司がAI給餌でハマチ養殖を最適化した事例
東松島市がサケ定置網漁業で漁獲予測を実現した事例

宮城県東松島市 スマート漁業モデル事業を開始|地域共創 (Te to Te)|KDDI株式会社
項目 | 内容 |
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企業・団体名 | 東松島市 × KDDI × 早稲田大学 |
業界 | 定置網漁業(水産) |
ビフォー | 経験依存で漁場選定のムダが多く、燃料や人件費がかかる;漁獲量予測困難 |
アフター | センサー・カメラ+AIで漁場予測→漁獲量2.4%増、燃料費節約も実現 |
宮城県東松島市では、従来の漁師の「勘」に依存した漁業から脱却し、科学的なデータに基づく漁業への転換を図りました。この取り組みでは、海中に設置したセンサーとカメラから得られるリアルタイムデータをAIが分析し、サケの回遊パターンや漁獲予測を行います。
その結果、漁獲量が2.4%向上し、同時に燃料費の節約も実現。さらに注目すべきは、熟練漁師の経験をデータとして形式化することで、若手漁師への技術継承を支援している点です。また、漁獲予報を流通業者にリアルタイムで共有する仕組みも構築され、サプライチェーン全体の効率化に貢献しています。
小浜市漁協がサバ養殖で効率化を達成した事例

項目 | 内容 |
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企業・団体名 | 小浜市漁協 × KDDI × 福井県立大学 |
業界 | 養殖(サバ) |
ビフォー | 経験に基づく給餌・水質管理で効率化困難 |
アフター | 水温・酸素濃度等をAI連動で管理→養殖効率向上 |
福井県小浜市では、伝統的な経験依存の養殖技術から、データドリブンな養殖運営への転換を実現しました。IoTセンサーにより水温、酸素濃度、塩分濃度などの環境データをリアルタイムで収集し、AIが最適な給餌タイミングや量を判断します。
この産学官連携プロジェクトにより、養殖効率が大幅に向上し、一時期減少していた養殖漁獲量の復活に成功。さらに、データに基づく品質管理により、ブランド化と販売戦略の強化も図られています。大学との連携により、科学的根拠に基づいた養殖技術の確立と、地域の漁業者への技術移転も同時に進められている点が特徴的です。
くら寿司がAI給餌でハマチ養殖を最適化した事例

日本初!AIを活用したハマチ養殖に成功 新商品「特大切りAIはまち」を6月24日(金)から全国で限定販売 | くら寿司のプレスリリース | 共同通信PRワイヤー
項目 | 内容 |
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企業・団体名 | くら寿司(KURAおさかなファーム) × ウミトロン |
業界 | 養殖(ハマチ) |
ビフォー | 給餌のタイミングや量が経験頼みでエサロス発生 |
アフター | AI給餌でエサ10%削減、燃料・労働も削減 |
回転寿司チェーンのくら寿司は、自社ブランド「KURAおさかなファーム」において、スタートアップ企業ウミトロンと連携したAI給餌システムを導入しました。このシステムは画像解析技術により魚の食欲を検知し、最適なタイミングと量での給餌を自動実行。
その結果、エサの使用量を10%削減し、燃料費や労働コストの軽減も同時に実現しています。スマートフォンによる遠隔管理機能により、養殖現場での作業負担も大幅に軽減。2022年6月には「特大切りAIはまち」として商品化され、環境負荷低減というブランドコンセプトとも整合した取り組みとなっています。
資源管理・環境負荷低減を実現した事例
この分野では、以下の3つの事例を取り上げます:
- 五島市がマグロ養殖で赤潮検知を実現した事例
- はこだて未来大学がなまこ乱獲防止を支援した事例
- オーシャンソリューションテクノロジーが漁獲努力量推定を自動化した事例
五島市がマグロ養殖で赤潮検知を実現した事例

項目 | 内容 |
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企業・団体名 | 五島市 × 総務省IoT支援事業 |
業界 | 養殖(クロマグロ) |
ビフォー | 従来手法では赤潮検知遅く、被害数千万円 |
アフター | ドローン+AIで15分以内に赤潮検出→即対応可能 |
長崎県五島市では、高価なクロマグロ養殖における最大のリスクである赤潮被害への対策として、革新的なAI検知システムを導入しました。従来の目視や手作業による海水サンプル採取では、赤潮の発見が遅れ、年間数千万円規模の損害が発生していました。
新システムでは、ドローンによる空撮と海水サンプルの自動分析をAIが連携して処理し、赤潮発生を15分以内に検出することが可能に。この迅速な検知により、養殖いけすの移動や給餌停止などの対応策を即座に実行でき、大幅な損害軽減を実現しています。
総務省のIoT支援事業として実装されたこの取り組みは、政府が推進するスマート水産業の成功モデルとして注目を集めています。
はこだて未来大学がなまこ乱獲防止を支援した事例

持続可能な水産業を実現するマリンITプロジェクト – 公立はこだて未来大学 -Future University Hakodate-
項目 | 内容 |
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企業・団体名 | はこだて未来大学 × 地元漁師 |
業界 | 漁業管理(なまこ) |
ビフォー | 漁師の属人的判断でなまこ乱獲や密漁が発生 |
アフター | iPad+データ収集+AI分析で適正漁獲モデル構築 |
北海道函館エリアでは、高価格化により密漁や乱獲が深刻化していたなまこ漁業において、大学と漁師が連携した画期的な資源管理システムを構築しました。漁師にiPadを配布し、操作負担を最小限に抑えた省入力型のデータ収集システムを導入。収集されたデータをAIが分析し、適正な漁獲量を予測するモデルを開発しています。
この取り組みの特徴は、漁師自身がデータ収集の主体として参画している点で、現場の実情を反映した精度の高い分析を可能にしています。さらに、密漁対策としてカメラ連携システムの導入も検討されており、持続可能な漁業資源管理の実現に向けた包括的なアプローチが注目されています。
オーシャンソリューションテクノロジーが漁獲努力量推定を自動化した事例

項目 | 内容 |
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企業・団体名 | オーシャンソリューションテクノロジー |
業界 | 資源管理(漁船) |
ビフォー | 漁船の日誌手書きによる報告で負担・誤り多く、資源分析が不正確 |
アフター | 衛星×AIで漁船航跡・CPUEを自動算出、資源評価と報告が迅速・正確に |
日本の準天頂衛星「みちびき」とAI技術を組み合わせた革新的な漁業資源管理システムが実用化されています。従来は漁師が手書きで作成していた漁獲日誌による報告は、記入ミスや負担の重さが問題となっていました。
新システムでは、高精度の衛星測位データから漁船の航跡を自動追跡し、CPUE(単位努力量当たりの漁獲量)を正確に算出します。これにより、科学的根拠に基づいた資源評価が可能となり、持続可能な漁業の基盤が構築されています。
さらに、出漁判断の支援機能も提供され、漁師の収益向上にも貢献。全国約11万隻の漁船への展開ポテンシャルを持つこの技術は、日本の漁業資源管理の革新をもたらしています。
流通・品質管理を強化した事例
この分野では、以下の2つの事例を取り上げます:
- 東北大学が超音波AI技術で魚の雌雄判別を実現した事例
- オーシャンソリューションテクノロジーが衛星AI技術で漁獲報告を支援した事例
東北大学が超音波AI技術で魚の雌雄判別を実現した事例

水産業DX化の一歩~AIと超音波で誰でも簡単に魚の雌雄を判別|デジ田メニューブック|デジタル田園都市国家構想
項目 | 内容 |
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企業・団体名 | 東北大IIS × 地元企業 |
業界 | 選別・加工(水産) |
ビフォー | 漁師の目視・勘に頼り、雌雄判別困難 |
アフター | AI×超音波で雌雄を簡易判別、雌雄分別出荷で単価向上 |
東北大学と地元企業が共同開発したSmart Echoは、超音波とAI技術を組み合わせた画期的な魚の雌雄判別システムです。従来は熟練漁師の目視と経験に頼っていた雌雄判別作業を、誰でも簡単に操作できる機器で98%の高精度で実現しています。
特にマダラやサケなどでは、雌雄を分別して出荷することで単価が600~700円に向上し、大幅な収益改善を実現。現場での操作が簡便で衛生的な点も評価が高く、高齢化が進む漁業現場での後継者育成支援にも貢献しています。5年以上にわたる開発期間で数万検体のデータを蓄積し、レンタル方式での提供により導入しやすさも確保。
2023年7月時点で13件の導入実績を持ち、今後は魚種選別装置などへの展開も予定されています。
オーシャンソリューションテクノロジーが衛星AI技術で漁獲報告を支援した事例

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項目 | 内容 |
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企業・団体名 | オーシャンソリューションテクノロジー |
業界 | 漁獲報告・事務支援 |
ビフォー | 漁獲報告に時間・労力負荷。測定ミスもあり負担重 |
アフター | 衛星データとAIで自動報告支援→精度向上&負担軽減 |
「トリトンの矛」と名付けられたこのシステムは、漁獲報告義務化により増加した小規模漁業者の事務負担を大幅に軽減する革新的なソリューションです。衛星データとAI技術を連携させることで、漁獲報告の自動化を実現し、手入力による測定ミスや報告漏れを防止しています。和歌山県紀伊水道沖での実証実験では、漁師の時間確保と報告精度の向上を同時に達成。衛星データを活用するため、漁船側に特別な機材を導入する必要がなく、導入コストを抑えながら高精度な報告が可能です。アプリ操作との連携により簡便性も確保され、長期的な事務効率化が期待されています。この取り組みは、デジタル化が遅れがちな漁業分野において、実用的なDX推進モデルとして注目されています。
地域連携・共同活用で成果を上げた事例
北海道漁連がMicrosoft 365で漁協DXを推進した事例

漁業DXの最前線:国内外の成功事例と未来展望から学ぶ、日本の水産業が変革するためのヒント|Mudness Partners
項目 | 内容 |
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企業・団体名 | 北海道漁業協同組合連合会 × Microsoft |
業界 | 漁協バックオフィス |
ビフォー | 支所間連携・事務業務が属人化・紙ベースで非効率 |
アフター | Microsoft 365導入で文書・会議連携が効率化 |
北海道漁業協同組合連合会では、地理的に分散した支所間の連携強化と業務効率化を目的として、Microsoft 365を活用したDX推進を実施しました。従来の紙ベースとオンプレミス管理による事務業務は属人化が進み、支所間の情報共有に遅延が生じていました。Microsoft Teamsを中心とした統合プラットフォームの導入により、文書管理と会議連携が大幅に効率化され、テレワークへの対応も強化されています。
この取り組みの特徴は、内部業務の効率化が現場支援への余力創出に直結している点です。COVID-19後の働き方変化への対応としても重要な意味を持ち、地理的制約を克服した協同組合運営のモデルケースとなっています。
Microsoft 365の導入により、会議資料の共有や意思決定プロセスが迅速化され、漁業者への支援により多くの時間とリソースを割けるようになりました。この実用的なDX事例は、規模の小さな協同組合への横展開も可能で、全国の漁協における業務改革のベンチマークとしても注目されています。
漁業へのAI導入前に検討すべきポイント3つ
漁業AI導入を検討する際は、以下の3つの視点から検討することが重要です:

自社の課題を明確にする
AI導入を検討する前に、まず現在抱えている具体的な課題を整理することが重要です。先ほど紹介した事例でも、東松島市では「経験依存による非効率」、五島市では「赤潮被害の早期発見」といった明確な課題が存在していました。
漁獲量の減少、作業効率の悪さ、人手不足、品質のばらつきなど、どの課題が最も深刻で、解決による効果が大きいかを見極める必要があります。課題が曖昧なままAI導入を進めても、期待した効果は得られません。

課題が曖昧なままAI導入を進めても、期待した効果は得られません。
導入余地のある業務を洗い出す
次に、現在の業務プロセスの中でAI技術が活用できる領域を特定します。データが蓄積されている業務、繰り返し作業が多い業務、判断が必要な業務などが導入候補となります。例えば、くら寿司の事例では給餌という日常的な作業にAIを導入し、Smart Echoでは雌雄判別という専門的な判断業務を自動化しました。

重要なのは、AI導入により既存の業務がどのように変化し、どの程度の効果が見込めるかを具体的にイメージすることです。
費用対効果を慎重に検討する
AI導入には初期投資だけでなく、継続的な運用コストも発生します。導入によって削減できるコスト(人件費、燃料費、材料費など)と、期待される収益向上(漁獲量増加、単価向上など)を数値化し、投資回収期間を試算することが大切です。

今回紹介した事例の多くは、具体的な数値効果(漁獲量2.4%増、エサ10%削減など)が報告されていますが、これらは導入前の綿密な検討があってこそ実現されたものです。
漁業におけるAI導入を進める3つのポイント
AI導入を成功させるためには、以下の3つのポイントを押さえることが重要です:

効果検証の進め方を明確にする
AI導入の成果を正確に測定するため、導入前に効果検証の方法を設計しておくことが重要です。東松島市の事例では漁獲量の増加率、くら寿司の事例ではエサ使用量の削減率など、具体的な数値指標が設定されていました。効果測定には、導入前のベースラインデータの収集、測定期間の設定、比較対象の明確化が必要です。

また、定量的な効果だけでなく、作業負担の軽減や技術継承といった定性的な効果も含めて評価することで、AI導入の真の価値を把握できます。
パイロット導入で小さく始める
いきなり大規模な導入を行うのではなく、限定的な範囲でのパイロット導入から始めることをお勧めします。五島市の赤潮検知システムも、まず特定の養殖場での実証から開始されました。パイロット導入では、技術的な課題の発見、現場での受け入れ状況の確認、実際の効果の測定が可能です。

この段階で得られた知見をもとに、システムの改良や運用方法の最適化を行い、本格導入時のリスクを最小化できます。
補助金・助成金を積極的に活用する
AI導入には相応の投資が必要ですが、国や自治体の補助金制度を活用することで負担を軽減できます。五島市の事例は総務省のIoT支援事業として実施され、各地の大学との連携事例では研究助成金も活用されています。水産業向けのDX推進補助金、スマート農林水産業推進事業、地域産業デジタル化支援事業など、様々な制度が用意されています。

申請には時間がかかるため、導入計画の段階から補助金情報を収集し、早めの準備を心がけることが大切です。
漁業AI導入ならニューラルオプト
漁業AI導入をお考えなら、課題解決コンサルティングから対応可能な合同会社ニューラルオプトにご相談ください。当社は世界的生成AIであるChatGPTの開発に携わるAI開発企業として、日本で展開されているChatGPTの裏側に関わっています。
漁業分野でのAI導入は、単なるシステム開発ではなく、現場の課題を深く理解した上での総合的なアプローチが必要です。当社では「失敗リスクを最小化する」をコンセプトに、課題起点での解決策提案から組織への定着支援、運用改善まで一貫してサポートします。
データサイエンスの知見を活かしたデータマイニングやテキストマイニングにも対応可能で、ECサイト「eBay」の価格自動設定AIや手書き文字のAI認識システムなど、様々な業界での開発実績を持ちます。漁業の特殊性を理解し、現場に寄り添った課題解決を実現したい事業者様に最適なパートナーです。