自治体における生成AIの活用事例15選!コスト削減や住民サービス向上など

近年、生成AI(人工知能)の技術が急速に発展し、多くの自治体でも業務効率化や住民サービス向上を目的とした活用が始まっています。本記事では、全国の自治体における生成AI活用の成功事例を5つの軸に分けて15事例をご紹介。

それぞれの取り組みから見える効果や特徴、導入のポイントを詳しく解説します。

これから生成AIの導入を検討している自治体関係者や、地方行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)に関心のある方にとって、参考になる情報をお届けします。

なお、以下の記事では生成AIの活用事例をさまざまな観点からまとめています。ぜひ合わせてご覧ください。

また、本メディアを運営する合同会社ニューラルオプトは、AIシステム開発を得意としています。

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目次

コスト削減を実現した事例

この軸では、生成AIを活用して業務効率化や作業時間短縮を達成した自治体の事例をご紹介します。

  • 相模原市:議会答弁原案の自動生成で作業時間40%削減
  • 北海道:全職員への生成AI開放で残業削減
  • 広島県:2.1万人利用で工数40%削減
  • 取手市:AI答弁支援で作成時間30%削減

相模原市が議会答弁作成で作業時間40%削減した事例

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項目内容
企業名神奈川県相模原市
業界行政(議会対応)
ビフォー議会答弁原案を職員が手書きで作成し、修正ループが多発していた
アフターNEC国産生成AIで過去答弁5年分を学習させ、原案自動生成により作業時間40%削減を実現

相模原市では、議会答弁作成の効率化を目的として、NECと共同でAI活用の実証実験を実施しました。これまで職員がゼロから起案していた議会答弁原案を、過去5年分の答弁データを学習した国産生成AIが自動生成。

3月と6月の定例会で試行運用を行った結果、職員アンケートでは45%が「構成のみ採用」と回答し、一定の効果を確認できました。国産LLM(大規模言語モデル)を行政データで学習させることで、自治体特有の表現や文体に対応できる点が特徴です。

検証終了後も市とNECが改良を継続することを表明しており、将来的には画像・音声生成AIの検証も予定。職員のスキルギャップ解消に向けたプロジェクトチームも発足させ、組織全体でのAI活用推進を図っています。

北海道が全職員に生成AI開放で残業削減した事例

道における生成AIサービスの利用について – 総務部イノベーション推進局情報政策課

項目内容
企業名北海道
業界行政(道庁)
ビフォー文書作成の残業が増加し、職員が私物PCで無料版生成AIを試用する状況
アフターChatGPT/Copilotを全職員に開放し、庁内アンケートで「業務効率化に役立つ」と多数回答を獲得

北海道では、働き方改革の一環として残業15%削減のKPIを掲げる中、生成AIの全庁展開を決断しました。2024年6月10日から全職員がChatGPTとMicrosoft Copilotを利用可能になり、わずか1か月で試行から全庁展開まで完了。定型文書作業の効率化を中心に、文書作成・アイデア出し業務の負荷軽減を実現しています。

道独自のガイドラインでは個人情報入力禁止を明文化し、安全性を担保。利用開始と同時にeラーニング研修を配信することで、職員のリテラシー向上と定着促進を図りました。

既存のMicrosoft 365ライセンス内で運用できるため、追加費用はAPI利用料のみという低コストでの導入も実現。迅速な展開により、他の自治体からも注目を集めています。

広島県が2.1万人利用で工数40%削減した事例

585931.pdf

項目内容
企業名広島県
業界行政(県庁)
ビフォー部局ごとに個別試行が行われ、職員は私物PCで無料版を使用するなどセキュリティ未整備の状況
アフターAzure OpenAI+exaBaseで2.1万人が利用可能な閉域環境を整備し、文書作成工数40%削減を達成

広島県では「ひろしまサンドボックス」で培ったDX文化を庁内にも展開する形で、県職員2.1万人が安全に利用できる生成AI環境を構築しました。7か月の小規模検証を経て、11か月という短期間で全庁展開を完了。

Azure OpenAIとexaBaseを基盤とした閉域環境により、セキュリティを確保しながら大規模利用を実現しています。県独自のチェックリスト付きガイドラインを策定し、利用ログの自動収集により改善サイクルを構築。試行段階と比較して文書作成工数を平均40%削減する成果を上げました。

年度予算2,000万円で試行環境と本番環境の両方を整備し、費用対効果の高い導入を実現。今後は県民向けFAQボットへの応用も検討しており、内部業務の効率化から住民サービス向上への展開を計画しています。

取手市がAI答弁支援で作成時間30%削減した事例

自治体DXニュース:Vol.6(2024年12月)|デジタル庁ニュース

項目内容
企業名茨城県取手市
業界行政(議会事務局)
ビフォー答弁書をゼロから起案する必要があり、残業が常態化していた
アフター音声認識企業と共同開発したAI答弁支援システムで作成時間30%短縮を実現

取手市では、議会対応業務の効率化を目的として、音声認識技術を得意とするアドバンスト・メディアと共同で専用の生成AIシステムを開発しました。

2024年9月の定例議会から本格運用を開始し、一般質問への答弁書作成時間を平均30%短縮することに成功。過去5年分の議会データを事前学習させることで、自治体特有の表現や言い回しに対応できる仕組みを構築しています。

質問通告を入力すると答弁素案を自動生成し、職員が「言い回しトーン」をボタンで調整できるユーザビリティの高いシステム設計が特徴的。通告締切から答弁素案完成までのリードタイムを3日から1日に短縮し、職員が政策立案により多くの時間を割けるようになりました。

年度予算800万円でシステム利用料と研修費を賄い、議会業務の質向上と効率化を両立させています。

住民サービス向上を実現した事例

住民により良いサービスを提供するため、生成AIを活用してサービス品質向上や利便性向上を図った事例をご紹介します。

  • 京都市:24時間多言語チャットボット導入
  • 大阪市:全庁アシスタント「Oasis」で品質平準化
  • 観音寺市:LINE連携で24時間多言語対応
  • 粕屋町:AIさくらさんで多言語音声案内

京都市が24時間多言語チャットボットで子育て支援を向上した事例

京都市:京都市AIチャットボットについて

項目内容
企業名京都府京都市
業界行政(子育て・福祉)
ビフォー子育て窓口が電話中心で、夜間対応ができない状況
アフター24時間365日対応のAIチャットボットを子育てポータルに実装し、アプリと連携

京都市では、人口減少対策として子育て環境の強化を急務とし、夜間・休日も相談できる仕組みを求めていました。2024年1月に24時間365日対応のAIチャットボットを子育てポータルサイトに実装し、多言語対応と日本語の表現の揺らぎにも対応できるシステムを構築。

FAQ(よくある質問)を随時学習する機能により、利用者の質問パターンに応じて回答精度を向上させています。市長会見で「市民の声で精度向上」と宣言し、住民との協働による改善を推進。スマートフォンアプリとの統合により利用導線を一本化し、プッシュ通知機能も搭載することで、より便利なサービス提供を実現しました。

この成功を受けて、2024年9月には障害福祉分野への水平展開も開始。子育て分野で蓄積したノウハウを活かし、福祉全般での住民サービス向上を図っています。

大阪市が全庁アシスタント「Oasis」で業務品質を平準化した事例

大阪市:大阪市生成AI利用ガイドライン (…>DX・デジタル化・スマートシティ>情報システムの指針・ガイドライン)

項目内容
企業名大阪市
業界行政(市役所・全局)
ビフォー要約・翻訳・企画案作成を各職員が個別ツールで対応し、品質にばらつきが発生
アフター2024年4月1日から独自アシスタント「Oasis」で全庁の品質を平準化

大阪市では、首都圏並みの行政サービスを目指し、市民手続きのリードタイム短縮を急務として取り組んでいました。2024年4月1日から独自の生成AIアシスタント「Oasis」を全庁に導入し、翻訳・要約・文書校正をワンストップで提供。

各職員が個別のツールを使用していた従来の状況から、統一されたプラットフォームでの業務実行により品質の平準化を実現しています。生成AI利用ガイドラインを同日に公開し、職員が安心して利用できる環境を整備。

水道局など専門性の高い部局では、業務マニュアルをLLM(大規模言語モデル)に学習させる共同検証をDNP(大日本印刷)と開始し、より専門的な質問への対応精度向上を図っています。

既存のAzure・GPT APIに加えて共同検証費を投じることで、専門業務での実用性向上を追求。2025年5月にはDX本部で評価会議を実施し、継続的な改善を計画しています。

観音寺市がLINE連携で24時間多言語対応を実現した事例

生成AIで市公式LINEチャットボット <br />=香川県観音寺市政策部企画課デジタル行政推進室<br />関和輝氏=:iJAMPポータル

項目内容
企業名香川県観音寺市
業界行政(市役所・観光)
ビフォー観光・手続き問い合わせが窓口に集中し、外国語対応が困難
アフター2024年7月に市公式LINEに生成AIチャットボットを導入し、日本語・英語・中国語で24時間応答

観音寺市では、瀬戸内国際芸術祭などの影響で観光客が増加する中、夜間・休日の問い合わせ急増が課題となっていました。

2024年7月に市の公式LINEアカウントにFIXER社の「GaiXer」を導入し、日本語・英語・中国語での24時間対応を実現。FAQは職員がCSV形式で簡単に更新でき、AIが質問者の意図を解釈して適切な回答を自動生成する仕組みを構築しています。

年間1.2万件の問い合わせをチャットに移行することを目標とし、職員の窓口対応負荷軽減を図っています。全ての回答をサーバーにログとして記録し、誤回答があった場合は再学習により精度向上を継続。ガイドラインでは「政策判断を伴う回答禁止」を明文化し、適切な運用を担保しています。

初期費用200万円と月額10万円という比較的低コストで、観光都市としてのホスピタリティ向上を実現した好例です。

粕屋町がAIさくらさんで多言語バリアフリー案内を導入した事例

AIさくらさんが多言語インフォメーション案内役として福岡県粕屋町役場に導入! | ニュース | AIさくらさん | AIチャットボット・アバター接客でDX推進

項目内容
企業名福岡県粕屋町
業界行政(町役場・窓口)
ビフォー庁舎ロビーが紙案内と有人窓口のみで、外国語・視覚障害者対応が不十分
アフター対話型生成AI「AIさくらさん」をタッチパネルと音声で導入し、日本語・英語・中国語に対応

粕屋町では、福岡空港に近い立地により外国人来庁者が年々増加する中、窓口負荷を抑えつつホスピタリティを高める必要がありました。

2023年3月に対話型生成AI「AIさくらさん」を庁舎ロビーに設置し、タッチパネルと音声による多言語案内を開始。バリアフリー対応として音声読み上げと画面拡大機能を搭載し、視覚に障害のある方でも利用しやすい環境を整備しています。

Webサイトと連携することで最新情報を即時反映でき、誤回答があった場合は職員が管理画面で直ちに修正・再学習させる運用体制を構築。周辺施設や公共交通案内まで対応できる街歩き支援機能も提供し、観光客の利便性向上にも貢献。操作ログを分析して人気手続きトップ10を毎月公開するなど、データに基づく継続改善を実施しています。

ハードウェア込みで700万円の導入費用は地方創生臨時交付金を活用し、2024年4月時点でFAQ 1,500件に対応できる充実したシステムに成長しています。

導入スピードが速かった事例

他の自治体に先駆けて迅速な導入を実現し、ノウハウ蓄積や他自治体への情報発信を行った事例をご紹介します。

  • 横須賀市:ChatGPT APIを2か月で本格実装
  • 札幌市:ガイドライン群策定から全職員利用許可まで短期間で実現
  • 神戸市:共通ポータル「K-GenAI」で全職員2万人に一斉開放

横須賀市がChatGPT全庁実装で自治体初の快挙を達成した事例

自治体初!横須賀市役所でChatGPTの全庁的な活用実証を開始(2023年4月18日)|横須賀市

項目内容
企業名神奈川県横須賀市
業界行政(市役所全庁)
ビフォー文書作成・要約・誤字チェックが属人化し、DX旗艦都市としての実績が不足
アフターChatGPT API連携済み庁内チャットで全職員が即日利用可能となり、2か月で本格実装を実現

横須賀市では、DX旗艦都市を宣言するものの文章作成の属人化がボトルネックとなっていました。市長が「生成AI開国」を掲げ、2023年4月に実証を開始してから同年6月には本格実装という驚異的なスピードで展開。“自治体初”の全庁利用として全国から注目を集め、1か月で80以上の自治体から問い合わせを受けました。

API連携により入力データの二次利用を遮断し、セキュリティを確保しながら迅速な導入を実現。職員アンケートでは効率向上80%という高い評価を獲得しています。プロンプトコンテストやハッカソンを開催して職員のスキル向上を図り、他自治体向けQ&Aボットを生成AIで自動運営するなど、ノウハウの外部共有も積極的に実施。

既存のLoGoチャットを活用することでコストを抑制し、クラウドAPI利用料のみでの運用を実現しました。2023年8月からは外部向けボットサービスも開始し、自治体DXのモデルケースとしての役割を果たしています。

札幌市がガイドライン群整備で安全な全庁展開を実現した事例

生成AI技術活用推進に向けた実証実験に係る情報提供依頼(RFI)について/札幌市

項目内容
企業名札幌市
業界行政(市役所)
ビフォー個人業務レベルでの利用にとどまり、部局横断の活用が進まない状況
アフター2023年12月に生成AIガイドライン群を策定し、全職員が安全に利用できる環境を整備

札幌市では、人口160万人の大都市における紙文化が根強く、庁内ナレッジ共有に時間を要していました。2023年6月から検討を開始し、同年12月にはガイドライン・方針・遵守事項をセットで公開する包括的な取り組みを実施。2024年3月には全職員の利用許可を完了し、短期間での安全な全庁展開を実現しています。

全職員対象の研修を1000名受講計画で実施し、組織全体でのリテラシー向上を図っています。ChatGPTとMicrosoft Copilotを併用し、用途に応じた使い分けを推進。週1回のプロンプトTips社内コラムを配信することで、継続的なスキル向上をサポートしています。

2025年4月にはRFI(情報提供依頼)を公開し、民間企業からの提案を募集。令和7年度の実証実験に向けて、さらなる活用拡大を計画しています。Microsoft契約内での運用により追加コストを抑制し、ガイドライン・研修は内製で対応することで費用対効果の高い導入を実現しました。

神戸市が共通ポータル「K-GenAI」で全職員2万人に開放した事例

神戸市:生成AIの利活用

項目内容
企業名神戸市
業界行政(市役所)
ビフォー各局が個別に生成AIを試行するが、ルール不在で庁外持ち出しが懸念され利用が進まない
アフター2024年2月1日から全職員2万人が利用可能な共通ポータル「K-GenAI」を整備

神戸市では、2024年度の市DXロードマップ達成に向け、年度内の全庁展開が必須課題となっていました。2023年10月から試行を開始し、わずか4か月後の2024年2月1日には全職員利用開始という迅速な展開を実現。

ブラウザとMicrosoft Teams両方で使える共通ポータル「K-GenAI」を整備し、申請不要で即利用できるユーザビリティを重視した設計としています。利用開始に合わせてガイドライン・FAQ・eラーニングを同時公開し、職員が「分からない」状態を最小化する配慮を実施。

パブリッククラウド環境でありながら個人情報入力ブロック機能を実装し、安全性を担保しています。利用結果を毎月ダッシュボードで公開し、成功事例を組織全体で共有する仕組みを構築。Microsoft 365の追加ライセンス費と研修動画制作費300万円という比較的低コストで、全国でも有数の規模での導入を実現しました。

補助金活用を実現した事例

国や県の補助金・交付金を効果的に活用して生成AI環境を整備した事例をご紹介します。

  • 袋井市:国費10/10でAzure OpenAI環境を構築し全庁展開へ

袋井市が国費10/10でAzure OpenAI環境構築を実現した事例

kisyakaikenshiryou050822-2.pdf

項目内容
企業名静岡県袋井市
業界行政(市役所)
ビフォー文書校正・FAQ作成を人手で対応し、職員リソースが逼迫
アフター事業費1.5億円(国費10/10)でAzure OpenAIを使った庁内チャットを構築し、2025年4月全庁展開予定

袋井市では、国のDX推進補助金を効果的に活用し、「書かない窓口」など住民接点の完全デジタル化を目指す旗艦プロジェクトを推進しています。

事業費1.5億円を全額国費で賄い、Azure OpenAIを基盤とした庁内チャットシステムを構築。Microsoft Teamsとの統合により、職員の操作負荷をゼロにする使いやすい環境を実現しています。2023年9月から企画部で先行利用を開始し、文章翻訳・議会答弁校正も対象業務に含めることで幅広い活用を図っています。

先行利用部門ではプロンプト研修を実施し、効果的な活用方法の習得を推進。マイナンバーカード連携により住民情報をプリセットする機能も搭載し、窓口業務の効率化を図っています。DX研究会を設置して組織的な検討を継続し、2025年4月の全庁利用開始に向けて着実に準備を進めています。

補助金を最大限活用することで、中規模自治体でも大規模なAI環境整備を実現した成功モデルとして注目されています。

ガバナンス・セキュリティ要件をクリアした事例

生成AI利用における情報セキュリティやガバナンス体制を適切に整備し、安全な運用を実現した事例をご紹介します。

  • 東京都:利活用ガイドラインVer.2で5万人対象の環境整備
  • 愛知県:県・政令市共同でガイドライン策定し毎年改訂
  • 鳥取県:全面禁止から暫定利用へ方針転換(失敗→改善事例)

東京都が利活用ガイドラインVer.2で5万人対象の安全環境を整備した事例

「文章生成AI利活用ガイドライン」を策定|東京都

項目内容
企業名東京都(デジタルサービス局)
業界行政(都庁全局)
ビフォー局ごとに試行が散発的で、ルール不統一により利用が進まない状況
アフター文章生成AI利活用ガイドラインVer.2を策定し、5万人対象に安全な環境を整備

東京都では、都民サービスQOS向上の旗艦施策「シン・トセイ4」の一環として、生成AI活用の全庁展開を推進していました。

情報漏えいリスクへの懸念が普及の壁となっていましたが、LGWAN分離とAzure OpenAIを組み合わせた閉域利用環境を構築。2023年8月にVer.1を策定し、2024年4月にはVer.2として活用事例とプロンプト例を含む包括的なガイドラインを公開しています。

利用不可シーンと入力禁止データを明文化することで、職員が安心して利用できる環境を整備。活用事例集をVersion管理で外部にも公開し、他自治体のベンチマークとしても機能しています。各局でのアイデアソンを1月に開催し、創造的な活用方法の発掘と職員のモチベーション向上を図っています。

既存のAzure契約内での実装により追加コストを抑制し、5万人規模での安全な利用環境を実現。継続的なガイドライン改訂により、技術進歩と利用実態に応じた柔軟な運用を実現しています。

愛知県が県・政令市共同ガイドラインで広域連携を実現した事例

生成AIの利用に関するガイドライン – 愛知県

項目内容
企業名愛知県
業界行政(県庁)
ビフォー県・政令市でルールに差があり、部局ごとに異なるルールで試行していた
アフター愛知県と名古屋市が共通で「生成AI利用ガイドライン」を策定し、毎年改訂で運用改善

愛知県では、「愛知AI首都構想」を掲げてDX進展を急ぐ中、ガバナンス専門部署不在がネックとなっていました。2023年11月に県と名古屋市が共同で生成AI利用ガイドラインを策定し、2024年11月には改訂版で活用例と禁止事項をより細分化。県・政令市連携モデルとして、広域での統一ルール運用を実現しています。

別紙として「有効なプロンプト例」を公開し、職員教育も兼ねた実用的なガイドラインを提供。PDF・Word両形式で配布することで現場での修正を容易にし、利用条件・禁止事項・チェックリストを3層構成で整理した分かりやすい構成としています。

県庁DX推進室が毎月のVersion管理を明言し、継続的な改善体制を構築。ドキュメント整備のみの取り組みのため追加費用は職員工数ベースに留まり、コスト効率の良いガバナンス整備を実現。他の都道府県での広域連携モデルとしても参考にされています。

鳥取県が全面禁止から暫定利用へ方針転換した教訓事例

知事定例記者会見(2023年4月20日)/とりネット/鳥取県公式サイト

項目内容
企業名鳥取県
業界行政(県庁)
ビフォー2023年4月に知事会見でChatGPT業務利用を当面禁止と発表
アフター2023年8月に「県庁AI活用ガイドライン(暫定版)」を策定し、30名限定で暫定利用を開始

鳥取県では、知事が「民主主義の自殺」と表現するほどの強いリスク意識を持ち、2023年4月に生成AIの業務利用を全面禁止すると発表しました。しかし、報道や他県の動向を踏まえ、「限定利用でリスク検証」へと方針を転換。

2023年8月には「鳥取県庁AI活用ガイドライン(暫定版)」を策定し、デジタル改革課が承認した30名限定での暫定利用を開始しています。重要政策・答弁資料への利用は依然禁止とし、リスク評価を継続する慎重なアプローチを採用。

ガイドラインでは「非公開情報を入力しない」等の禁止例を具体的に明文化し、段階的な利用拡大の基盤を整備しています。禁止理由と緩和方針をガイドラインで明文化することで、「禁止→限定解禁」という全国でも珍しい方針転換の透明性を確保。庁内検証環境の構築により、安全性を確認しながらの段階的な活用拡大を図っています。

拙速な導入を避けてガバナンス整備を優先した好例として、慎重なアプローチを重視する自治体の参考となっています。

自治体生成AI導入を成功させるポイント

生成AIの導入を成功に導くために、自治体が押さえておくべき重要なポイントをご紹介します。

予算確保の手順を明確化

自治体における生成AI導入では、まず予算確保の手順を体系的に整理することが重要です。初期費用としてシステム構築費、ライセンス費用、研修費が必要となり、継続費用としてAPI利用料、保守費用、運用人件費を見込む必要があります。

袋井市の事例のように国費10/10の補助金を活用するケースもあれば、北海道のように既存Microsoft 365ライセンス内で運用してコストを抑制する方法もあります。重要なのは、短期的な導入費用だけでなく、3年から5年の中長期運用コストまで含めた総合的な予算計画を立案することです。

ニューラルオプト編集部

議会での説明資料には費用対効果を定量的に示し、他自治体の成功事例を根拠として活用することで承認を得やすくなります。

ガバナンス体制の整備

安全で効果的な生成AI活用には、適切なガバナンス体制の構築が不可欠です。情報管理責任者の明確化、利用承認フローの設計、セキュリティインシデント時の対応体制を事前に整備する必要があります。東京都や愛知県の事例が示すように、利用ガイドラインの策定と継続的な改訂体制の構築が重要なポイント。

個人情報や機密情報の取り扱いルール、生成されたコンテンツの責任範囲、外部サービス利用時の契約条件などを明文化することで、職員が安心して利用できる環境を提供できます。

ニューラルオプト編集部

定期的な利用状況の監査と改善サイクルの仕組みを組み込むことで、運用開始後の継続的な品質向上も図れます。

職員研修プログラムの設計

生成AIの効果的な活用には、職員のリテラシー向上が欠かせません。札幌市のように全職員1000名を対象とした研修計画を立案し、習熟度を段階的に評価する仕組みの構築が重要です。

基礎的なAI理解から始まり、プロンプト作成技術、応用方法、注意事項まで体系的にカバーした研修カリキュラムを設計。横須賀市のプロンプトコンテストのように、学習した内容を実践で活用する機会を提供することで定着を促進できます。eラーニングとワークショップを組み合わせ、部門別の特性に応じたカスタマイズ研修も実施しましょう。

ニューラルオプト編集部

継続的なフォローアップとして、週次のTips配信や質問会の開催により、組織全体のスキル向上を図ることが成功の鍵となります。

ベンダー・モデル選定基準の策定

自治体のニーズに最適なベンダーとAIモデルを選定するための明確な基準策定が必要です。セキュリティ要件として、データの国内保管、暗号化対応、アクセス制御機能を確認。機能要件では、日本語処理精度、専門用語対応、カスタマイズ可能性を評価します。

相模原市のように国産LLMを選択するケースもあれば、広島県のようにAzure OpenAIで閉域環境を構築する選択肢もあります。コスト面では初期費用だけでなく、利用量に応じた従量課金制度、将来の拡張性、他システムとの連携可能性も考慮。

ニューラルオプト編集部

ベンダーの技術サポート体制、導入実績、自治体での運用ノウハウの有無も重要な選定ポイントとなります。

住民への告知とフィードバック体制構築

生成AI導入による住民サービス向上を実現するには、適切な告知とフィードバック体制の構築が重要です。京都市の事例のように、AIチャットボット導入時には「市民の声で精度向上」を明示し、住民との協働による改善を推進。サービス開始時の周知方法、利用方法の案内、問い合わせ窓口の設置を体系的に計画します。

観音寺市のようにLINE公式アカウントを活用する場合は、既存の情報発信チャネルとの連携も重要。定期的な利用状況の公開、改善実績の報告により透明性を確保し、住民の信頼獲得に努めます。

ニューラルオプト編集部

誤回答や不適切な応答があった際の迅速な修正体制を整備し、継続的なサービス品質向上を図ることで、住民満足度の向上につなげられます。

公共領域で生成AIを使う際の注意点

自治体が生成AIを導入する際に特に注意すべき、公共性の観点から重要なポイントをご紹介します。

個人情報保護とLGWAN接続要件への対応

自治体における生成AI活用では、個人情報保護条例とLGWAN(総合行政ネットワーク)接続要件への適切な対応が必須となります。LGWANとは、地方公共団体を相互に接続する行政専用のネットワークのこと。広島県や東京都の事例が示すように、閉域環境での運用やAzure OpenAIを活用したセキュアな接続方式の検討が重要です。

個人情報については、マイナンバーや住民情報を生成AIに入力することは原則禁止とし、匿名化処理や仮名化処理を行った上での活用を検討。また、生成AIサービスのデータ保管場所、データの二次利用禁止条項、サービス提供者との責任分担を明確に定めた契約締結が必要です。

ニューラルオプト編集部

職員向けガイドラインでは具体的な禁止事項を明文化し、定期的な監査により適切な運用を確保することが求められます。

生成コンテンツの責任範囲とファクトチェック体制

生成AIが作成したコンテンツに対する責任の所在と、正確性を担保するファクトチェック体制の整備が重要です。AIが生成した情報には誤りや偏見が含まれる可能性があるため、最終的な責任は必ず人間の職員が負うという原則を明確化。

特に住民向けの情報発信や政策決定に関わる文書については、複数の職員による確認プロセスを必須とします。相模原市の議会答弁支援事例では、AIが生成した原案に対して職員が内容確認と修正を行う体制を構築。観音寺市のLINEチャットボットでは、誤回答があった場合の迅速な修正と再学習の仕組みを整備しています。

ニューラルオプト編集部

生成されたコンテンツには「AI支援により作成」といった表示を行い、透明性を確保することで住民の理解と信頼獲得を図ることが重要です。

バイアスと透明性に関する説明責任

公共機関として、生成AIのバイアス(偏見)問題と透明性の確保について適切な説明責任を果たす必要があります。AIモデルは学習データの偏りにより、特定の集団や意見に偏った回答を生成する可能性があるため、多様性を考慮した運用指針の策定が必要。

粕屋町のAIさくらさん導入事例では、バリアフリー対応として音声読み上げ機能を搭載し、障害者への配慮を実現しています。また、AI利用の判断基準、採用しているモデルの特性、データの学習範囲について住民に分かりやすく公開。

定期的な精度検証と改善実績の報告により、継続的な品質向上への取り組みを明示することで、公共サービスとしての信頼性を維持できます。

ニューラルオプト編集部

職員研修においても、バイアス認識とその対策について教育することが重要です。

セキュリティインシデント時の対応計画

万が一のセキュリティインシデント発生時に備えた、明確な対応計画の策定が不可欠です。データ漏えい、システム侵害、不正アクセスなどの緊急事態における初動対応、関係機関への報告フロー、住民への告知方法を事前に定めておく必要があります。

鳥取県の慎重なアプローチ事例が示すように、リスクを十分に検討した上での段階的な導入も有効な戦略。インシデント発生時には、影響範囲の特定、サービス停止の判断、復旧手順の実行を迅速に行える体制を構築します。また、外部のセキュリティ専門機関との連携体制を整備し、技術的な支援を受けられる環境を用意しましょう。

ニューラルオプト編集部

定期的な訓練の実施により、実際のインシデント発生時に適切な対応ができるよう準備しておくことが重要です。

アクセシビリティと多言語対応の確保

全ての住民が平等にサービスを利用できるよう、アクセシビリティと多言語対応の確保が公共サービスとして必要です。粕屋町のAIさくらさんは音声読み上げと画面拡大機能により視覚障害者への配慮を実現し、観音寺市のLINEチャットボットは日本語・英語・中国語での24時間対応を提供しています。

高齢者や障害者でも利用しやすいインターフェース設計、音声入力への対応、文字サイズの調整機能などを検討します。また、外国人住民の増加に対応するため、主要な言語での情報提供体制を整備。京都市の子育てチャットボットのように、多言語対応と日本語の表現の揺らぎへの対応を両立させることで、より多くの住民に利便性を提供できます。

ニューラルオプト編集部

定期的な利用状況の分析により、対応言語の追加や機能改善を継続的に実施することが重要です。

活用できる補助金・支援制度

生成AI導入に活用できる国や自治体の補助金・支援制度をご紹介します。

総務省の地域情報化推進費等補助金

総務省が提供する地域情報化推進費等補助金は、自治体のデジタル化推進を支援する重要な制度です。生成AI導入に関連する情報システムの整備、住民サービス向上のためのデジタル基盤構築、職員の業務効率化を目的としたシステム導入などが対象となります。

補助率は事業内容により異なりますが、地方の小規模自治体では比較的高い補助率が適用されるケースが多く見られます。申請時には、導入効果の定量的な目標設定、既存システムとの連携計画、セキュリティ対策の詳細な説明が求められます。

ニューラルオプト編集部

申請スケジュールは年度により変動するため、総務省の公式発表を定期的に確認し、早期の準備開始が重要です。

内閣府のデジタル田園都市国家構想交付金

デジタル田園都市国家構想交付金は、地方創生とデジタル化を一体的に推進する内閣府の支援制度です。袋井市の事例のように、住民サービスのデジタル化と業務効率化を同時に実現する取り組みが対象となります。「

書かない窓口」の実現や、AIを活用した多言語対応サービスなど、住民の利便性向上に直結する事業が評価されやすい傾向があります。交付金の活用には地方版総合戦略への位置づけが必要で、地域の課題解決と持続可能な発展への貢献を明確に示すことが重要になってきます。

ニューラルオプト編集部

複数年度にわたる事業計画の策定も可能なため、段階的な生成AI導入計画との親和性が高い制度です。

経済産業省の先端技術実証事業費補助金

経済産業省の先端技術実証事業費補助金は、AI・IoT等の先端技術を活用した実証事業を支援する制度です。相模原市とNECの共同検証のように、民間企業との連携による技術実証が対象となります。特に国産AI技術の活用や、自治体特有の課題解決に向けた技術開発・実証が評価されます。

補助対象には技術開発費、実証実験費、効果検証費などが含まれ、民間企業が主体となる場合でも自治体が共同実施者として参画可能。実証結果の横展開や、他自治体への波及効果も評価ポイントとなるため、成果の公開・共有体制の整備が重要です。

ニューラルオプト編集部

申請には技術的な詳細資料と期待される社会的効果の説明が必要となります。

民間・大学との共同研究助成

民間企業や大学との共同研究により、生成AI活用に関する助成を受ける選択肢もあります。大阪市とDNPの共同検証のように、企業の研究開発費と自治体のフィールド提供を組み合わせた連携が効果的。大学との連携では、科学研究費補助金や各種財団の研究助成金を活用し、学術的な検証と実用化を同時に進められます。

取手市とアドバンスト・メディアの連携事例では、企業の技術力と自治体の実務ノウハウを組み合わせることで、実用性の高いシステム開発を実現しました。

ニューラルオプト編集部

共同研究契約では知的財産権の取り扱い、成果の公開範囲、費用分担について事前に明確化することが重要です。

職員研修費を対象とした支援制度

生成AI活用に必要な職員研修費についても、様々な支援制度が活用できます。地方自治体職員研修事業では、DXリテラシー向上やAI活用スキル習得を目的とした研修費用が対象となります。札幌市の全職員1000名研修計画のような大規模な取り組みでは、研修効果の定量的な測定と継続的な評価体制の構築が求められます。

また、総務省や各都道府県が実施する自治体職員向けデジタル研修プログラムの活用も効果的。外部講師の招聘費用、eラーニングシステムの導入費用、研修教材の作成費用なども支援対象となるケースがあります。

ニューラルオプト編集部

研修計画の策定時には、段階的なスキル習得カリキュラムと効果測定指標の設定が重要なポイントです。

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著者・監修者

合同会社ニューラルオプト代表。
東京外国語大学卒業後、大規模言語モデルBERTなどの機械学習を活用したマーケティングツールの研究開発を目的にニューラルオプトを創業。

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