介護業界のAI活用事例12選!人手不足や事故防止、業務改善を実現した例
介護業界では慢性的な人手不足や高齢化の進行により、様々な課題が深刻化しています。そうした中、AI(人工知能)技術を活用した業務効率化や品質向上の取り組みが注目を集めています。
本記事では、実際に介護現場でAIを導入し、具体的な成果を上げている12の事例をご紹介します。人手不足の解消、転倒・事故の防止、ケア品質の個別最適化、経営・運営コストの最適化という4つの観点から、それぞれの導入前後の変化や特筆すべきポイントを詳しく解説。介護事業者の皆様にとって、AI導入の参考となる実践的な情報をお届けします。
なお、以下の記事ではAIの活用事例を網羅的に紹介しています。ぜひ合わせてご覧ください。

【一覧表】介護業界におけるAI活用事例まとめ

人手不足を解消するAI活用事例
介護現場の人手不足は深刻な問題です。ここでは、AIを活用して業務効率化を図り、限られた人員でより質の高いサービスを提供している3つの事例をご紹介します。
- 神戸中央福祉会 塩屋さくら苑が送迎計画作成時間を90%削減した事例
- 社会医療法人仁寿会がレクリエーション参加率を22ポイント向上させた事例
- 西東京ケアセンターそよ風が夜間巡視回数を40%削減した事例
神戸中央福祉会 塩屋さくら苑が送迎計画作成時間を90%削減した事例

神戸中央福祉会 塩屋さくら苑 様 │ 送迎計画作成者が増えて属人化解消 送迎システムのドライブボス
項目 | 内容 |
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企業名 | 神戸中央福祉会 塩屋さくら苑 |
業界 | 通所介護(デイサービス) |
ビフォー | ベテラン職員がホワイトボードで手作業による送迎計画作成(1時間超/日) |
アフター | AIルート生成により3分で完了、新人でも運用可能に |
神戸中央福祉会 塩屋さくら苑では、慢性的なドライバー不足と複雑な山間ルートにより、送迎の遅延やクレームが頻発していました。従来はベテラン職員1名がホワイトボードを使い、6台30名の送迎計画を1時間以上かけて手作業で組んでおり、属人的なノウハウが継承できない状況でした。
パナソニック製のAIルート最適化システム「DRIVEBOSS」を導入したことで、1クリックで最適なルートが自動生成されるように。経験1年未満の新人スタッフでも3分で送迎計画を完成できるようになりました。
さらに、ルート最適化により燃料コストも8%削減し、利用者の安全性向上も実現。月額SaaS形式での導入に国の補助金も活用し、12ヵ月でのROI回収を見込んでいます。
社会医療法人仁寿会がレクリエーション参加率を22ポイント向上させた事例

項目 | 内容 |
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企業名 | 社会医療法人仁寿会 グループホームかわもと |
業界 | 認知症グループホーム |
ビフォー | 高齢職員中心でレクリエーション企画が固定化、利用者参加率が低下 |
アフター | 会話ロボットPALROが司会進行し、参加率が22ポイント向上 |
平均職員年齢63歳の同施設では、レクリエーション企画が固定化し、利用者の参加率低下と職員の心理的負担増加が課題でした。ITリテラシーへの不安からロボット活用に抵抗感もありました。
富士ソフト製の会話ロボット「PALRO」導入により状況が一変。PALROが体操やゲームの司会を自動進行することで、職員は個別介助に集中できるようになりました。
4段階のマニュアル整備により現場定着も順調に進み、利用者の笑顔や発話回数が大幅に増加。厚生労働省の事例集にも掲載され、施設全体のDX推進意識向上にもつながっています。1台約120万円の導入費用は地域医療介護総合確保基金による補助金でカバーしました。
西東京ケアセンターそよ風が夜間巡視回数を40%削減した事例

項目 | 内容 |
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企業名 | 西東京ケアセンターそよ風 |
業界 | 複合型介護施設 |
ビフォー | 多層階の夜勤1名体制で巡視に平均20分/階、転倒リスクが高い状況 |
アフター | 離床予測システムで夜間巡視回数40%減、転倒ゼロを更新中 |
多層階建ての同施設では、夜勤1名体制でフロア全体を見守ることができず、職員の精神的負担が大きな課題でした。各階の巡視に平均20分を要し、転倒リスクの高い利用者への対応が後手に回ることもありました。
インフィック製の「LASHIC-care」導入により、温度センサーと人感センサー、AIによる離床予測機能を活用したプッシュ通知システムを構築。利用者の起き上がりや離床の兆候を事前に察知し、スタッフに的確なタイミングで通知されるようになりました。その結果、夜間巡視回数を40%削減しながら転倒ゼロを継続中です。
ナースコールとセンサー情報を統合した画面により、データ可視化でケアカンファレンスの質も向上。1ベッド月額2000円からの利用料で、18ヵ月でのROI回収を見込んでいます。
転倒・事故を防止するAI活用事例
介護現場での転倒や事故は、利用者の安全確保と職員の負担軽減において重要な課題です。ここでは、AIを活用して転倒予防や事故防止に成功している3つの事例をご紹介します。
- 社会福祉法人与勝会が転倒事故を48%削減した事例
- マクニカが誤報率5%未満の転倒検知システムを実現した事例
- 社会福祉法人和楽ホームが事故件数を25%削減した事例
社会福祉法人与勝会が転倒事故を48%削減した事例

特別養護老人ホーム与勝の里 | 介護ロボット 予測型見守りシステム【Neos+Care ネオスケア】
項目 | 内容 |
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企業名 | 社会福祉法人与勝会 与勝の里 |
業界 | 特別養護老人ホーム |
ビフォー | 転倒事故が月平均1.2件発生、夜間コール対応の遅延で職員が疲弊 |
アフター | 3DセンサーAIシステムで転倒回数48%減、介護職員のケア時間30%減 |
利用者の重度化と職員不足により事故リスクが増大していた与勝の里では、転倒事故が月平均1.2件発生し、夜間のコール対応遅延が職員の疲弊につながっていました。
ノーリツプレシジョン製の「Neos + Care」を導入することで状況が大幅に改善。3D電子マットと距離センサーを組み合わせた姿勢解析AIが、離床や端座位など10種類の危険動作を学習し、転倒の予兆を的確に検知します。スマートフォンへのプッシュ通知により、職員は即座に対応できるようになりました。
さらに、シルエット動画による事故原因の解析機能で再発防止策も強化。導入後は自治体補助金を活用し、ベッドあたり15万円の導入費用を実質7.5万円に圧縮できました。
マクニカが誤報率5%未満の転倒検知システムを実現した事例

icetana 異常検知の仕組み – AI事業 – マクニカ
項目 | 内容 |
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企業名 | マクニカ |
業界 | 介護テック・システムインテグレーション |
ビフォー | 赤外線センサーのみでは誤報が多発していた |
アフター | Edge AIカメラでリアルタイム検知、誤報率5%未満、事故対応時間40%短縮 |
従来の赤外線センサーでは、プライバシー配慮のため解像度が低く、精度不足による誤報が多発していました。また、徘徊や転倒の区別ができず、職員の業務負荷増加が問題となっていました。
マクニカでは、Jetson搭載のEdge AIカメラと行動認識アルゴリズムを組み合わせた転倒検知システムを開発。非識別シルエット処理により、GDPR相当のプライバシー保護を実現しながら、リアルタイムでの転倒・徘徊検知を可能にしました。
クラウドレス処理により通信遅延もなく、APIを通じて電子記録システムとも連携。PoC(概念実証)から本番環境への移行を3ヵ月で完了し、3施設展開により1年でのROI回収を達成しています。
社会福祉法人和楽ホームが事故件数を25%削減した事例

特別養護老人ホーム 和楽ホーム 様 | A. I. Viewlife エイアイビューライフ
項目 | 内容 |
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企業名 | 社会福祉法人和楽会 和楽ホーム |
業界 | 特別養護老人ホーム・ショートステイ |
ビフォー | 夜間転倒事故が年間7件発生、スタッフの負担が大きい状況 |
アフター | A.I.Viewlifeで事故25%減、スタッフのストレス指標18%改善 |
年間7件の夜間転倒事故により、事故削減KPIが達成できず厚生労働省の視察対象となっていた和楽ホーム。スタッフの心理的負担も大きく、離職率の高さが課題でした。
A.I.Viewlife製のシルエット見守りシステム導入により状況が好転。深度カメラとAI姿勢推定技術を活用し、5台の見守りカメラでフロア全体をカバーしました。重要なのは、単なるシステム導入ではなく、導入前の課題見える化からPDCAサイクル整備まで、スタッフ教育を伴う運用プロセスを構築したこと。
その結果、事故件数25%削減とスタッフのストレス指標18%改善を同時に実現し、厚生労働省発行の42ページにわたる公式事例集にも掲載されました。補助金対象機器のため実負担は約半額となっています。
ケア品質を個別最適化するAI活用事例
利用者一人ひとりのニーズに応じた質の高いケアを提供するため、AIを活用した個別最適化の取り組みが進んでいます。ここでは、ケアプランの最適化や認知症予防、排泄ケアの改善に成功している3つの事例をご紹介します。
- 愛媛県伊予市・西条市がAIケアプランで要介護改善率を3.4ポイント向上させた事例
- 横須賀市がAIトークセラピーで認知機能を8.5%向上させた事例
- 建昌福祉会さざんか園が排尿予測AIで夜間巡視を50%削減した事例
愛媛県伊予市・西条市がAIケアプランで要介護改善率を3.4ポイント向上させた事例

AIケアプラン「SOIN(そわん)」は頼りになるパートナー – ケアニュース by シルバー産業新聞|介護保険やシルバー市場の動向・展望など幅広い情報の専門新聞
項目 | 内容 |
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企業名 | 愛媛県伊予市・西条市×CDI |
業界 | 自治体・在宅介護支援 |
ビフォー | ケアマネジャー1人当たり32件を手計算、プラン作成に平均4.1時間 |
アフター | AI提案システム「SOIN」でケアマネの作業時間65%削減、要介護改善率3.4ポイント向上 |
地域包括ケアの質向上と財政負担抑制を目的とした愛媛県の取り組みでは、ケアマネジャー1人が担当する32件のケアプランを手計算で作成し、1件あたり平均4.1時間を要していました。経験による差も大きく、サービスの質にばらつきが生じていたのが課題でした。
CDI製のAIケアプラン作成支援システム「SOIN」を導入することで状況が劇的に改善。4.5万件のケアプランデータを学習したAIが最適なケアプランを自動提案し、ケアマネジャーの作業時間を65%削減しました。重要なのは単なる時短効果だけでなく、科学的根拠に基づいたケアプランにより利用者の要介護改善率が3.4ポイント向上したこと。
ケアマネジャーの満足度も92%と高く、プラン候補とエビデンスがセットで提示されることで、厚生労働省の科学的介護推進体制加算にも直結しています。国交付金を活用し、自治体負担は2分の1に抑えられました。
横須賀市がAIトークセラピーで認知機能を8.5%向上させた事例

生成AIを活用したお悩み相談チャットボットの公開実験スタート|横須賀市
項目 | 内容 |
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企業名 | 横須賀市 |
業界 | 地方自治体・認知症予防 |
ビフォー | 高齢者の孤立とMCI(軽度認知障害)進行率が市平均5.8% |
アフター | 6ヵ月実証で認知機能テスト8.5%向上、参加者87%が継続意向 |
在宅高齢者の社会参加機会不足により、軽度認知障害(MCI)の進行率が市平均5.8%と高い水準にあった横須賀市。従来の集団活動では参加しにくい高齢者も多く、個別対応の必要性が高まっていました。
生成AI技術を活用したパーソナライズド対話システムを導入し、6ヵ月間の実証実験を実施。大規模言語モデル(GPT-4)と感情解析API(HumeAI)を組み合わせることで、一人ひとりの感情状態や興味関心に応じた会話を実現しました。
タブレット端末を常設することで、ICTが苦手な高齢者でも簡単に操作できる環境を整備。担当保健師がダッシュボードで効果を確認できる仕組みも構築しました。結果として認知機能テストのスコアが8.5%向上し、参加者の87%が継続利用を希望。市の負担額約600万円で、認知症予防の新たなモデルケースとなっています。
建昌福祉会さざんか園が排尿予測AIで夜間巡視を50%削減した事例

お客様の声 | DFree – トイレ介護の失敗を減らす排泄予測機器
項目 | 内容 |
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企業名 | 建昌福祉会 さざんか園 |
業界 | 地域密着型特別養護老人ホーム |
ビフォー | 排泄パターンが把握できず失禁事故多発、夜間巡視6回/人 |
アフター | DFreeで排尿予測により夜間巡視50%削減、褥瘡発生ゼロを達成 |
利用者の排泄パターンが把握できず失禁事故が多発していたさざんか園では、夜間の巡視を1人につき6回実施する必要があり、職員の負担が大きな課題でした。また、失禁による皮膚トラブルや介護度進行のリスクも懸念されていました。
Triple W製の排尿予測デバイス「DFree」を導入することで状況が大幅に改善。腹部に装着した超音波センサーが膀胱の状態を常時モニタリングし、時系列AIが個人の排尿パターンを学習して最適なタイミングを予測します。これにより、おむつ交換の最適化が実現し、夜間巡視回数を50%削減できました。
さらに、おむつ使用量も18%削減されコスト削減効果も実現。データ蓄積によりケアプランの改善も進み、褥瘡発生ゼロを達成するなど、利用者のQOL向上にも大きく貢献しています。月額1.5万円のレンタル料金で、施設プランとして導入しやすい価格設定も魅力です。
経営・運営コストを最適化するAI活用事例
介護事業者にとって経営の安定化と効率的な運営は重要な課題です。ここでは、AIを活用して人件費削減や業務効率化を実現し、経営・運営コストの最適化に成功している3つの事例をご紹介します。
- 学研グループがHumanoidロボットで夜間業務工数を25%削減した事例
- KDDIが対話AIで面談記録業務を70%削減した事例
- ユニバーサルスペースが生成AIで書類作成時間を80%短縮した事例
学研グループがHumanoidロボットで夜間業務工数を25%削減した事例

学研グループ2社がAI搭載型ロボット「アイオロス・ロボット」 を6事業所で本格導入 高齢者住宅施設で消毒や夜間巡視作業 – ロボスタ
項目 | 内容 |
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企業名 | 学研ココファン・メディカル・ケア・サービス |
業界 | サービス付き高齢者向け住宅・高齢者住宅 |
ビフォー | 夜間の巡視・消毒対応で職員1人あたり2時間/日を要していた |
アフター | Aeolus Robotが夜間巡視とUV除菌を自動化、職員工数25%削減 |
学研グループの6施設では、夜間加算の上限人員を超えない範囲で安全確保を行う必要があり、夜間の巡視と消毒作業に職員1人あたり2時間を要していました。特にコロナ禍以降、感染症対策の重要性が高まり、業務負荷がさらに増加していました。
多機能Humanoidロボット「Aeolus Robot」をRaaS(Robot as a Service)モデルで導入することで課題を解決。SLAM技術(自己位置推定と地図作成)と物体把持機能を組み合わせ、夜間の巡視業務とUVライトによる除菌作業を自動化しました。スマートロックとの連携により施錠確認も可能で、警備機能も兼ね備えています。
学研・丸文・Aeolus社の共同RaaS契約により、月額15万円/台での利用を実現。想定回収期間18ヵ月で、夜勤体制を維持しながら職員工数を25%削減できました。
KDDIが対話AIで面談記録業務を70%削減した事例

介護人材不足解消に向け、対話AI搭載型ロボットによる介護実証を実施 | KDDI News Room
項目 | 内容 |
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企業名 | KDDI |
業界 | 通信・介護DX |
ビフォー | ケアマネジャーのモニタリング面談が月延べ160時間 |
アフター | 対話AI「MICSUS」で面談記録時間70%削減、家族共有も自動化 |
一人暮らし高齢者の見守りとケアマネジャーの負荷軽減を目的としたKDDIの実証実験では、ケアマネジャーが行うモニタリング面談の記録作成に月延べ160時間を要し、業務負荷が大きな課題となっていました。
対話AI「MICSUS」とロボット「RoBoHoN」を組み合わせたマルチモーダル対話システムを開発。自然言語理解と要約モデルにより、高齢者との面談内容を自動的に記録・要約し、Webダッシュボードで家族との情報共有も自動化しました。
179名・900回の面談実証により有効性を確認し、面談記録時間を70%削減。雑談機能の追加により継続率も向上し、高齢者の孤立防止効果も期待できます。実証段階のため商用価格は未定ですが、自治体連携補助事業の適用により導入ハードルを下げています。
ユニバーサルスペースが生成AIで書類作成時間を80%短縮した事例

日本経済新聞に掲載されました[住宅改修理由書作成支援アプリ] – 株式会社ユニバーサルスペース[公式]|介護リフォーム/情報システム
項目 | 内容 |
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企業名 | 株式会社ユニバーサルスペース |
業界 | 住宅改修・介護リフォーム |
ビフォー | 住宅改修理由書作成に平均50分、77%のケアマネジャーが「面倒」と回答 |
アフター | 生成AIが10分で理由書生成、作業時間80%短縮 |
住宅改修における理由書作成は、ケアマネジャーにとって負荷の大きい業務でした。平均50分の作成時間を要し、77%のケアマネジャーが「面倒」と回答。書類作成の負荷が原因で改修提案を断念するケースも22%に上っていました。
GPT-4を活用した住宅改修理由書作成支援アプリを開発することで状況を改善。個人情報マスキング機能と自治体別のテンプレート生成AIにより、東京都・神奈川県のフォーマットに自動対応します。特許取得済みのアルゴリズムにより、10分で理由書を生成し、作業時間を80%短縮しました。
現在はβ版を無償提供しており、全国展開を進めています。フリーミアムモデルから有償版への移行を予定しており、ケアマネジャーの工数削減価値が主な導入動機となっています。ペーパーレス化も推進し、業界全体のDX化に貢献しています。
介護現場の課題をAIで解決するポイント
AI導入を成功させるためには、闇雲にシステムを入れるのではなく、戦略的なアプローチが必要です。ここでは、介護現場でAIを効果的に活用するための5つの重要なポイントをご紹介します。

現場課題を可視化する
AI導入の第一歩は、現状の業務プロセスを詳細に分析し、真の課題を明確にすることです。多くの介護施設では「人手不足」という大きな課題は認識していても、具体的にどの業務のどの部分で最も時間がかかっているのか、どの作業が職員の負担になっているのかが明確でない場合があります。
業務時間の記録や職員アンケート、利用者の安全に関するインシデント分析などを通じて、数値化できる課題を洗い出すことが重要。例えば「夜間巡視に1人あたり平均○分要している」「転倒事故が月平均○件発生している」といった課題です。

具体的な数値で現状を把握することで、AIによる改善効果も測定しやすくなります。
小規模PoCから始める
PoC(Proof of Concept:概念実証)とは、本格導入前に小規模で技術の有効性を検証することです。介護現場では特に、いきなり大規模なシステムを導入すると現場の混乱を招くリスクがあります。
まずは1つのフロアや特定の業務に限定してAIシステムを試験導入し、効果を確認することから始めましょう。本記事の事例でも、マクニカの転倒検知システムがPoCから本番環境への移行を3ヵ月で完了させるケースが見られました。

小規模から始めることで、システムの課題や改善点を早期に発見し、本格展開時のリスクを最小化できます。
データを整備する
AIシステムの精度は、学習に使用するデータの質と量に大きく左右されます。介護現場では、利用者の状態記録、バイタルデータ、行動パターンなど様々なデータが日々蓄積されていますが、これらが体系的に整理されていないケースも少なくありません。
愛媛県の事例では、4.5万件のケアプランデータを活用してAIの学習精度を高めており、豊富で質の高いデータがAIの性能向上に直結していることがわかります。

AI導入前に、データの収集方法を標準化し、必要な情報が適切な形式で記録される仕組みを構築することが重要です。
スタッフ教育を行う
AI導入における最大の障壁の一つが、現場スタッフの抵抗感です。特に介護現場では、ベテランスタッフが多く、新しい技術への不安を感じる場合があります。社会医療法人仁寿会の事例では、平均年齢63歳の職員がロボット活用に成功していますが、これは4段階のマニュアル整備と段階的な教育によるものでした。

技術的な操作方法だけでなく、AIがなぜ必要なのか、どのような効果が期待できるのかを丁寧に説明し、スタッフが主体的に取り組める環境を作ることが成功の鍵となります。
KPIを設定する
AI導入の効果を客観的に評価するため、明確なKPI(重要業績評価指標)を設定することが不可欠です。単に「業務が楽になった」という主観的な評価だけでなく、「巡視時間○%削減」「事故件数○件減少」といった定量的な指標を設けることで、投資対効果を正確に測定できます。
本記事の事例でも、各施設が具体的な数値目標を設定し、達成状況を継続的にモニタリングしていることが成功要因となっています。

KPIは導入前の現状値と比較できるよう、事前にベースラインを確立しておくことも重要です。
介護向けAIを導入するときの注意点
AI導入を検討する際は、効果への期待だけでなく、リスクや課題についても事前に把握しておくことが重要です。ここでは、介護現場でAI導入を成功させるために特に注意すべき5つのポイントをご紹介します。

個人情報保護に対応する
介護現場では、利用者の身体状況や病歴、家族構成など極めて機密性の高い個人情報を取り扱います。AIシステムはこれらのデータを学習・分析の対象とするため、個人情報保護法や介護保険法に基づく厳格な管理体制が必要です。
特に画像認識AIを活用する場合は、プライバシーへの配慮が欠かせません。本記事で紹介したマクニカの事例では、非識別シルエット処理によりGDPR相当のプライバシー保護を実現しています。データの暗号化、アクセス権限の設定、データ保存期間の明確化など、技術的・運用的な対策を総合的に講じることが求められます。

利用者や家族への説明と同意取得も忘れずに行いましょう。
運用フローを明確化する
AIシステムを導入しても、実際の業務フローが曖昧では効果を発揮できません。従来の手作業による業務プロセスから、AIを活用した新しいワークフローへの移行計画を詳細に策定することが重要です。
例えば、転倒予測AIを導入する場合、「AIが危険を検知した際に誰がどのような手順で対応するのか」「従来の定期巡視とAI通知による対応をどう組み合わせるのか」といった具体的な運用ルールを事前に決めておく必要があります。

AIの判断に疑問を感じた場合の対処法や、システム障害時のバックアップ体制も整備しておくことで、現場の混乱を防げます。
法規制をチェックする
介護業界は法的規制が厳しく、AIシステムの導入にあたっても様々な法令への準拠が必要です。介護保険法、高齢者虐待防止法、個人情報保護法など、関連する法規制を事前に確認し、コンプライアンス体制を整えることが欠かせません。
特に、AIによる介護記録の自動作成や、利用者の状態判定に関わる機能については、介護保険制度上の要件を満たしているかの確認が重要。また、医療機器に該当する可能性のあるAIシステムの場合は、薬機法(医薬品医療機器等法)への対応も必要となります。

不明な点があれば、導入前に所管行政機関に相談することをおすすめします。
現場抵抗感を低減する
AIに対する現場スタッフの抵抗感は、導入失敗の大きな要因となります。「AIに仕事を奪われるのではないか」「複雑な操作を覚えられるだろうか」といった不安を抱く職員も少なくありません。
成功事例では、導入前に十分な説明会を開催し、AIは職員の仕事を奪うものではなく、より質の高いケアを提供するためのツールであることを丁寧に説明しています。また、操作に不安を感じる職員には個別のサポートを提供し、段階的に慣れてもらう配慮も重要です。

現場主導でAI活用の効果を実感できる環境を作ることで、スタッフの積極的な参加を促進できます。
保守費用を見積もる
AI導入時の初期費用だけでなく、継続的な保守・運用費用も事前に把握しておくことが重要です。AIシステムは定期的なメンテナンス、データの更新、セキュリティ対策の強化など、継続的な投資が必要になります。
特に、AIモデルの性能維持には定期的な再学習が必要で、これには専門的な知識とコストがかかります。また、ハードウェアの更新やソフトウェアのアップデート費用も考慮する必要があります。本記事の事例では、多くの施設がRaaS(Robot as a Service)やSaaS(Software as a Service)モデルを採用しています。

これにより、初期投資を抑えつつ保守費用も含めた総合的なコスト管理を実現しています。
介護AI導入ならニューラルオプト
介護現場のAI導入を成功させるためには、技術力だけでなく、課題解決力と継続的なサポート体制が不可欠です。合同会社ニューラルオプトは、世界的生成AIであるChatGPTの開発に携わるAI開発企業として、日本で展開されているChatGPTの裏側を支える技術力を持ちながら、介護現場の課題解決コンサルティングから対応できる開発会社です。
「失敗リスクを最小化する」をコンセプトに、課題の可視化から解決策の提案、組織への定着支援、運用改善まで総合的にサポート。データサイエンスの知見を活かしたデータマイニングやテキストマイニングにも対応し、ECサイト「eBay」の価格自動設定AIや手書き文字のAI認識・要約システムなど豊富な開発実績を保有しています。
介護現場でのAI導入において、失敗リスクを抑えつつ確実な効果を実現したい事業者様に最適なパートナーです。