【具体例】カスタマージャーニーとは?ゼロから作り方、フレームワークを紹介
カスタマージャーニーとは
カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスに出会い、購入して使い続けるまでの一連のプロセスのこと。
顧客がブランドを知る最初の瞬間から、購入の決断、実際の使用経験、さらには関連商品やサービスへの関心が深まるまでのすべての段階を包みます。
カスタマージャーニーを理解することで、顧客のニーズと行動を深く把握できるように。
例えば、顧客がオンライン広告を見て新しいスマートフォンに興味を持ち、レビューを読んで更に関心を深め、店舗で実物を確認して購入に至るまでのプロセスがカスタマージャーニーになります。企業はそれに基づいたマーケティング戦略を立てることができます。
カスタマージャーニーマップとは
カスタマージャーニーマップは、顧客の購入プロセスを視覚的に表現したもの。
カスタマージャーニーは顧客が製品やサービスとどのように関わっていくかを段階ごとに示し、顧客体験を深く理解するための重要なツールとなるでしょう。
ユーザーシナリオとの違い
カスタマージャーニーマップとよく比較されるのがユーザーシナリオですが、この2つは異なるコンセプトになります。
- ユーザーシナリオ:特定の製品やサービスを使用する際の顧客の行動や思考を詳細に描写するもの。より具体的な状況に焦点を当てます。
- カスタマージャーニーマップ:ある顧客セグメントの全体的な経験とプロセスを捉える。より幅広い視点から顧客体験を理解するのに役立ちます。
カスタマージャーニーマップを作成するメリット3つ
カスタマージャーニーマップを作成するメリットは以下のとおりです。
- 顧客の視点を深く理解する
- ペインポイントの特定と改善
- より効果的なマーケティング戦略の策定
1. 顧客の視点を深く理解する
カスタマージャーニーマップを作成することで、企業は顧客の視点を深く理解することができます。
顧客が各ポイントでどのような経験をしているのか、どのタッチポイント(顧客とブランドが接触する点)で満足・不満を感じているのかを把握することが可能になります。
2. ペインポイントの特定と改善
マップを通じて、カスタマージャーニーの中で顧客が直面する問題点や困難(ペインポイント)を特定できます。
ペインポイントを把握することで、企業は顧客の不満を解消し、体験を向上させるための具体的な改善策を立てることができます。
3. より効果的なマーケティング戦略の策定
カスタマージャーニーの各段階において最も効果的なマーケティング手法を特定し、顧客に適切なメッセージを届けることが可能に。
たとえば、意識向上のための広告キャンペーンや、購入決定の後押しをするプロモーションなど、ターゲットに合わせた戦略が展開できます。
カスタマージャーニーを作成する5ステップ
カスタマージャーニーマップは、以下のステップに従って作成できます。
1. ターゲットセグメントを理解する
カスタマージャーニーマップを作成する上で、まず重要なのは「ターゲットセグメントを理解する」こと。
ここは、製品やサービスが対象とする特定の顧客セグメントに関する洞察を得る工程。
市場調査、顧客データの分析、競合他社の顧客層の観察などを通じて、ターゲット市場の特徴やニーズ、行動パターンを明らかにしていきます。
例えば…ある「高級スキンケア製品」の場合は、以下のようにターゲットセグメントを設定することになるでしょう。
ターゲットセグメント:「30代から50代の高収入女性」
ターゲットセグメントを設定したら、この年代の女性がどのようなスキンケア製品を好むか、どのような購買行動を取るかなどについてのデータを集め、分析していきます。
2. ターゲットからペルソナを設定する
ターゲット市場を理解した後のステップは「ペルソナの設定」です。
ペルソナは、ターゲット市場を代表する架空の顧客像であり、ターゲット市場の特徴をより具体的な形で表現します。
- ターゲット:顧客セグメント。
- ペルソナ:ターゲットの中に存在する、個々の顧客のこと。
ペルソナごとに、具体的には以下の項目を設定します。
- 基本情報:顔写真、年齢、性別、居住地、出身地、学歴、キャリア歴、家族構成
- 仕事の情報:業界、業種、職種、役職、年収
- 心理特性:趣味嗜好、性格、価値観
- 行動特性:ライフスタイル、重視していること、休日の過ごし方など
- 情報源:新聞・雑誌・ネットマガジン、SNSなど
例えば、ステップ1で設定した高級スキンケア製品の「30代から50代の高収入女性」というターゲットセグメントからペルソナを設定すると、以下のようになるでしょう。
- 名前:アキコ
- 年齢:40歳
- 性別:女性
- 職業:企業経営者
- 居住地:港区
- 心理特性:合理的
- 行動特性:日々忙しいが、対外的にコミュニケーションをする立場なのでできる限り美容に時間を使っている。オフの日は整体、エステなどに行く。
このように、ペルソナはターゲット市場の特性(年齢層、収入レベル、ライフスタイル)をより具体的に反映します。
3. ペルソナのジョブを理解する
ペルソナを設定したら、次にそのペルソナが達成しようとする「ジョブ」を理解することが重要です。
ここでいう「ジョブ」とは、「ペルソナが解決しようとしている問題」のこと。
ジョブを正しく理解しなおすことで、カスタマージャーニーの各ポイントで「何を伝えるべきか」を決められるようになります。
例えば、ステップ2で設定したペルソナであるアキコさんの場合、例えばジョブは以下のようになるでしょう。
時間が限られている中でお金をかけても美貌を保ち、社内外の関係者に好印象を抱いてもらい、取引を有利に進めたい。
ジョブを理解することで、企業はアキコさんがどのような製品を求めているかを理解することが可能に。
例えば、「たまにつけ忘れても、画期的な効果をもたらすスキンケアアイテム」をコンセプトとしてプロダクトを開発。
カスタマージャーニーの各ポイントで「〇〇のスキンケアバームは、弊社が新しく開発した〇〇を配合しているので、2~3日に一度つけるだけでも肌のツヤを保つことができます」のようにコミュニケーションを行うことが考えられるでしょう。
ジョブを正しく理解するには調査が必要
ジョブを正しく理解するには、可能な限り調査を行いましょう。
具体的には、インタビューなどの定性調査をもとに「こんなジョブがあるのではないか」と仮説を立てた後、定量調査で仮説を検証していきます。
4. フレームワークを選ぶ
次に、カスタマージャーニーマップ作成に使用するフレームワーク(購買行動モデル)を選んでいきます。
フレームワークには、以下のような種類があります。
ペルソナや商材によって適切なフレームワークは異なりますので、よく精査して選びましょう。
- AIDMA
- AISAS
- AISCEAS
- DECAX
- 5A
AIDMA
- Attention(注意):製品やサービスに気づく段階。
- Interest(興味):製品に興味を持ち始める段階。
- Desire(欲求):製品を欲しいと思う段階。
- Memory(記憶):顧客の記憶に残る段階。
- Action(行動):実際に購入する段階。
1989年に提唱された「AIDA」というモデルに、1920年頃にMemory(記憶)を追加したものです。
古典的なモデルながらも、まだまだ有効です。直感的に考えやすいモデルとなるので、不慣れな方はAIDMAが良いでしょう。
AISAS
- Attention(注意):製品やサービスに気づく段階。
- Interest(興味):製品に興味を持ち始める段階。
- Search(検索):情報をインターネットなどでリサーチする段階。
- Action(行動):実際に購入する段階。
- Share(共有):体験を他者と共有する段階。
AISAS(アイサス)は、2004年に大手広告代理店である電通によって導入されたモデルです。
インターネットやソーシャルメディアの登場により、消費者の行動が相互的なコミュニケーションへと変化したことを反映している点に着目。
AISASモデルは、デジタルメディアを活用した製品やサービスのプロモーション、特に顧客のオンラインでの意見共有やレビューが重要な役割を果たす場合に適しています。
AISCEAS
- Attention(注意):製品やサービスに気づく段階。
- Interest(興味):製品に興味を持ち始める段階。
- Search(検索):情報をインターネットなどでリサーチする段階。
- Comparison(比較):他の製品・サービスと比較する段階。
- Examination(検討):実際に商品を購入するか検討する段階。
- Action(行動):実際に購入する段階。
- Share(共有):体験を他者と共有する段階。
AISASにComparison(比較)とExamination(検討)を追加したモデルがAISCEAS(アイシーズ)です。
現代な適合しているモデルとなります。
ステップが7つあり、細かく分析できる点は良いですが、その分、分析の労力も多くなります。
DECAX
- Discovery(発見):製品を発見する段階。
- Engagement(関係構築):顧客と関係性を構築していく段階。
- Consideration(検討):検討する段階。
- Acquisition(獲得):製品を獲得する段階。
- eXperience(体験):商品・サービスの体験をSNSなどでシェアする段階。
DECAX(デキャックス)は2015年に電通が提唱した、コンテンツマーケティング(企業が情報を発信して消費者とコミュニケーションを図る)時代を代表するモデル。
それまでのモデルと特に違うのは、最初の段階と2つ目の段階。
AIDMA、AISCEASなどの最初のA、Attention(注意)はテレビCMなど企業から顧客へのコミュニケーションを想定したモデルでした。つまり、従来のモデルは企業視点となっていました。
一方、DECAXの場合はDiscovery(発見)という「顧客がGoogle検索やSNSなどで商品・サービスを発見する段階」という顧客視点からジャーニーが始まり、eXperience(体験)という「SNSなどでシェアする」という段階で終わります。
そのため、「コンテンツ作りに力を入れていく」「SNSなどでシェアが発生しやすい商材」の場合はDECAXが適しています。
5A
- Aware(認識):製品の存在を知る段階。
- Appeal(魅力):魅力を感じる段階。
- Ask(質問):質問や情報収集の段階。
- Act(行動):購入などの具体的な行動。
- Advocate(支持):製品を推奨する段階。
5Aモデルは、「マーケティングの神様」とも言われるフィリップ・コトラーが2016年に著書「Marketing 4.0」の中で提唱したモデル。
DECAXと比べ、5Aは顧客の長期的なエンゲージメントとブランドロイヤルティの構築に着目した、現代に適合したモデルとなります。
結局どのフレームワーク?
結局、どれが良いのでしょうか。迷っている方は、以下のように選びましょう。
- 主にオンラインで集客を行う場合:5A
- 細かく分析したい場合:AISCEAS
- とにかく考えやすいモデルが良い場合:AIDMA
5. カスタマージャーニーマップを埋めていく
使用するフレームワークが決まったら、いよいよカスタマージャーニーマップの作成に入ります。
表を作成する
まずは表を作りましょう。
横軸には各ステップ、縦軸には「思考」「行動」「ポジティブな感情」「ネガティブな感情」「疑問」「タッチポイント」などを設けます。
- 思考
その段階での顧客の思考。 - 行動
その段階でも顧客の行動。「友人に相談」など自社に直接関係ないとこまで含めます。 - ポジティブな感情
自社サービス・プロダクトに関するポジティブな感情。 - ネガティブな感情
自社サービス・プロダクトに関するネガティブな感情。不安なども。 - 疑問
自社サービス・プロダクトに関する疑問。 - タッチポイント
顧客とブランドが接触するポイント。サイト、SNS、パッケージなど全て。
各ステップでの感情の変化を曲線で表す「感情曲線」を追加するケースもあります。
Web設計の場合は、追加で以下の行を設けても良いでしょう。
- ポジティブな感情を強化するため、どんな情報・ページを用意する?
- ネガティブな感情を払拭するため、どんな情報・ページを用意する?
- 疑問を解決するため、どんな情報・ページを用意する?
マップを作成していく
次は、各ステップごとに顧客の思考・行動などのマップを作成していきます。
マップを埋める時は以下の点に注意しましょう。
- 「設定したペルソナ」が「ジョブを解決したい時」にどうなるかを常に意識する
人によっても、またジョブによっても各ステップで行うアクションや抱く感情・疑問は異なります。
時間をかけてペルソナを設定し、ジョブを理解したのですから、カスタマージャーニーマップ作成に十分活用しましょう。
各ステップの課題・アクションを洗い出す
マップが埋まったら、各ステップで以下の点を洗い出します。
- 各ステップでの自社サービス・プロダクト・サイトなどの課題
- その課題を解決するためのアクション
カスタマージャーニーマップは作成して終わりではありません。
目的はユーザー・エクスペリエンス(CX)を改善することであり、具体的な改善につながるアクションを実行しなければ、ただ労力をかけただけに終わってしまいます。
カスタマージャーニーマップ作成の注意点5つ
注意点1. 客観性を保つ
カスタマージャーニーマップは顧客の視点から作成する必要があります。
企業の偏見や仮定を排除し、実際の顧客の声やデータに基づいてマップを作成することが重要。
客観的なカスタマージャーニーマップにするためには、以下のポイントに留意しましょう。
- チームで行う
一人ではなく、複数人のチームで作成しましょう。 - 調査を行う
インタビューなどの定性調査で仮説を立てて、定量調査で仮説を検証しましょう。
注意点2. 継続的な更新・改善
顧客のニーズや行動は時間とともに変化します。
したがって、カスタマージャーニーマップは一度きりのものではなく、定期的に更新し続ける必要があります。
大きな市場の変化が予想される時はもちろんですが、最低でも年に一度は時間をとってカスタマージャーニーマップを振り返りましょう。
注意点3. 必ずアクションに落とし込む
マップから自社サービス・プロダクト・サイトなどの改善点をあぶり出し、実際にどうすれば改善できるのか、アクションまで落とし込みましょう。
繰り返しますが、マップを作成すること自体が目的ではありません。
マップから得られたインサイトを実際のアクションプランに変換し、ユーザー・エクスペリエンス(顧客体験)を改善することが目的です。
以下のレベルにまで落とし込むと、具体的なアクションと言えます。
- when:いつするか
- who:誰がするか
- what:何をするか
- how:具体的にどうするか
- why:なぜするか
注意点4. ペルソナごとに複数作成する
ペルソナによって、どのような体験をするのか、どんな感情を抱くのかは異なります。
ペルソナを複数設定するのであれば、ペルソナごとにカスタマージャーニーを作りましょう。
注意点5. 作り込みすぎない
カスタマージャーニーは、作り込みすぎないようにしましょう。
よく考え作り込むのは、よいことです。
しかし、作り込むというのは顧客セグメントを細分化することにも繋がります。細分化するほどそれぞれのセグメントのボリュームが小さくなっていき、極端な話0.1%などごくわずかな顧客に関して時間をかけすぎてしまうことに繋がります。
かけた時間に対するマーケティング施策の有効性を担保するためにも「ペルソナの設定を作り込みすぎない」「マップを作り込みすぎない」などのポイントを意識しましょう。
カスタマージャーニーマップ作成ツール
カスタマージャーニーを作成する際は、以下のツールが有用です。
- Googleスプレッドシート
- Miro
Googleスプレッドシート
Excelのような表計算ソフトを使うことで、カスタマージャーニーマップを簡単に作成することが可能です。
しかし、無料で使用できるGoogleスプレッドシートの方がカスタマージャーニーマップ作成には優れています。
というのも、Googleスプレッドシートはブラウザ上で動くソフトであり、オンラインで共有することも簡単にできるのです。
チームで行うことが多いカスタマージャーニーマップ作成には、可能であればExcelよりもGoogleスプレッドシートを使用しましょう。
Miro
Miroは、ブラウザ上で動くソフト。
チームで共有し、リアルタイムで同時に編集できるため、意見を出し合いながら制作するカスタマージャーニーマップの作成には最適です。
まずアカウントを作成しましょう。Googleアカウントを持っていれば、簡単に作成できます。
まずは「Create a board」の「New Board」から新しいボードを作成します。
次に「Tables」を選び、ボードののどこかをクリックして表を追加しましょう。これでExcelやGoogleスプレッドシートと同じように制作できます。