医療現場におけるデジタル変革(DX)は、看護業務の効率化と質の向上を実現する重要な取り組みです。本記事では、日本国内で実際に成果を上げている看護DX事例を15例厳選し、5つの分野に分けて詳しく紹介します。
日本看護協会の「2024年 病院看護実態調査」によれば、看護職員の月平均超過勤務時間は依然として長く、正規雇用看護職員の離職率は11.3%(2023年度)に達しています。こうした労働環境の改善にDXがどう貢献できるか、本記事の事例が具体的な指針を提供します。
出典: 2024年 病院看護実態調査 報告書(No.101)/日本看護協会/2025年
記録時間の削減、転倒・急変の予防、コミュニケーションの統合、患者教育のデジタル化、訪問看護の効率化など、各医療機関が抱える課題と解決策を具体的な数値とともに解説。現場での導入を検討している医療従事者の皆様にとって、実践的な参考情報となる内容をお届けします。
- 看護DXは「記録削減」「転倒・急変予防」「院内通信統合」「患者教育」「訪問看護」の5領域で成果が出ており、自院の最大ボトルネックを一つ特定してPoC対象を絞ることが、定着率と費用対効果の両立につながる。
- 成功事例に共通するのは「新ツール導入」より「運用設計の見直し」が先という順序。県立広島病院の記録標準化やHITO病院のAI予測も、既存システムの活用と業務フロー変更を組み合わせることで初めて72%削減・38%インシデント減を実現している。
- 医療現場のDXは現場スタッフの定着なしに成果は出ない。自治医科大の「多世代に使えるシンプル設計」や広島県看護協会の「使える運用の見直し優先」が示すように、機能より運用継続性を軸にツール選定することが失敗を防ぐ最大の鍵。
以下の記事ではDX事例をより広く紹介しています。ぜひ合わせてご覧ください。

記録時間を削減した事例

看護記録は患者の状態把握や治療方針の決定に欠かせない業務ですが、記録にかかる時間の長さは多くの医療機関で課題となっています。以下では、記録業務の効率化により大幅な時間短縮を実現した2つの事例をご紹介します。
- 県立広島病院:記録内容の標準化とリアルタイム記録で時間外勤務を72%削減
- 柏葉脳神経外科病院:スマホ音声入力システムで感染対策下での記録を効率化
県立広島病院が時間外勤務を72%削減した事例

看護記録に要する時間削減の効率化への取り組み―記録内容の標準化とリアルタイム記録に焦点を当てて― – 公益社団法人日本看護協会 | Japanese Nursing Association
| 項目名 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | 県立広島病院(地方独立行政法人広島市立病院機構ではなく、広島県の県立病院) |
| 業界 | 病院(急性期・高度急性期、712床) |
| ビフォー | 記録業務の非リアルタイム化・煩雑さにより、時間外勤務が増加(2015年に月平均33.7時間、年間360時間超過が約7割) |
| アフター | 記録内容の標準化+電子カルテの自動展開(ワンクリック)+リアルタイム記録徹底により、時間外勤務を3年で72%削減 |
県立広島病院では、看護記録に関わる業務の非効率性が長時間労働の主要因となっていました。消化器病棟を中心に記録物の多さとリアルタイム記録の不足により、2015年時点で月平均33.7時間の時間外勤務が発生。年間360時間を超過する職員が約7割に達していました。
この課題を解決するため、同院では記録内容の標準化と電子カルテの機能を最大限活用する取り組みを実施。ワンクリックで情報を自動展開できるテンプレートの作成や、リアルタイム記録の徹底、パートナー制による運用定着を図りました。
結果として、3年間で時間外勤務を72%削減という劇的な改善を実現。既存の電子カルテシステムを活用することで投資効率を高めつつ、リアルタイム記録の推進により退院支援の前倒しなど看護の質向上にも貢献しました。
ただしこの成果の前提として、「消化器病棟という業務パターンが比較的定型化しやすい部署から始めた」点は見落とせません。救急や集中治療のような業務の変動が大きい部署では、テンプレート化が難しく、同じアプローチが通じないケースも多い。まず業務の標準化が進みやすい病棟で成果を出し、それを横展開するという順序が、失敗リスクを下げる現実的な進め方だと考えています。

株式会社ニューラルオプト 営業部部長 / DX事業部部長
古谷優輝
東京農工大学大学院 工学府 応用化学専攻 修士課程を修了後、外資系自動車会社にてエンジニアとして自動運転のAI開発などに従事。その後ニューラルオプトに参画し、クライアントのAI開発やSEOツールの開発、RAGなどベクトル検索を活用した検索エンジン開発なども行っています。
柏葉脳神経外科病院がスマホ音声入力で記録革命を実現した事例

A_3d_kango2021_kashiwaba-1.pdf
| 項目名 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | 社会医療法人柏葉会 柏葉脳神経外科病院(144床) |
| 業界 | 病院(脳神経外科中心の急性期) |
| ビフォー | コロナ禍のゾーニング下で紙帳票の扱い・往来・PPE着脱が負担、看護記録も非効率 |
| アフター | スマホの音声入力システムで看護記録時間を短縮、病室↔ナースステーション往来やPPE着脱回数も減少 |
柏葉脳神経外科病院では、新型コロナウイルス感染症への対応により生じた業務制約を、逆に業務効率化の機会として捉えた事例です。感染対策に伴うゾーニング(区域分け)により、紙ベースの記録業務と動線制約が二重の負担となっていました。
そこで同院では、スマートフォンを活用した音声入力システムを導入。看護師が病室で患者の状態を音声で記録できるようにすることで、記録時間の大幅短縮を実現しました。
この取り組みにより、看護記録にかかる時間が短縮されただけでなく、病室とナースステーション間の往来回数やPPE(個人防護具)の着脱回数も減少。感染リスクの低減と物品コストの削減を同時に達成し、病室での患者支援時間の確保にもつながりました。感染対策という制約下でも効果を発揮する実用的なソリューションとして注目されています。
転倒・急変を予防した事例
患者の転倒や急変は医療現場における重大な課題の一つです。従来の人的アセスメントには負担やばらつきがあり、より効率的で精度の高い予防システムが求められています。以下では、AI技術を活用して転倒リスクの予測精度を向上させた事例をご紹介します。
- HITO病院:言語解析AIで転倒リスクを自動予測し、インシデントを460件から284件に削減
HITO病院がAI予測でインシデントを大幅削減した事例

患者の転倒転落リスクをAIで予測し多職種連携で個別ケアを実践する! – 公益社団法人日本看護協会 | Japanese Nursing Association
| 項目名 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | 社会医療法人石川記念会 HITO病院(257床) |
| 業界 | 病院(急性期) |
| ビフォー | 転倒・転落リスク評価を看護師のアセスメントシートで実施、評価負担(35分)と見落としが課題 |
| アフター | 言語解析AIが電子カルテ記録を解析し自動でリスク判定。評価時間:35分→0分、インシデント:460件→284件に減少 |
HITO病院では、転倒・転落リスクの評価に関する業務負担と予測精度の向上が長年の課題でした。従来は看護師が手作業でアセスメントシートを用いてリスク評価を行っており、1件あたり35分の時間を要していました。また、人的判断によるばらつきや見落としのリスクも懸念されていました。
この課題を解決するため、同院では言語解析AI技術を導入。電子カルテに記録される看護記録を自動で解析し、転倒・転落リスクを予測するシステムを運用開始しました。
その結果、評価時間は35分から0分へと完全に自動化され、看護師の負担を大幅に軽減。さらに重要な成果として、年間のインシデント数を460件から284件へと約38%削減することに成功しました。
AI予測により抽出されたリスク情報は多職種間で即時共有され、個別ケア介入の迅速化を実現。患者安全の向上と業務効率化を同時に達成した先進的な事例として高く評価されています。
なお、後述の厚生労働科学研究では、看護師がICTに移譲可能と考える業務の上位に「転倒転落アセスメント」「褥瘡発生リスクアセスメント」が含まれており、これらのリスク評価業務はAI活用の効果が最も見込まれる領域であることが全国調査でも示されています。HITO病院の事例は、この現場ニーズに応えた先駆的な実装例です。
出典: 効率的な看護業務の推進に向けた実態調査研究/厚生労働科学研究(研究代表者:武村雪絵)/2020年
AIが電子カルテを解析してリスク予測する仕組みは非常に有効ですが、精度が出るには「それなりの量の看護記録が蓄積されていること」が前提です。当社がAI開発に携わった経験上、学習データが不十分な状態でリリースすると、誤検知が多発して現場からの信頼を失い、結果的に「使われないシステム」になるリスクがあります。導入前に「自院の電子カルテデータがAI学習に足る量と質を持っているか」を必ず確認することを推奨します。

株式会社ニューラルオプト 営業部部長 / DX事業部部長
古谷優輝
東京農工大学大学院 工学府 応用化学専攻 修士課程を修了後、外資系自動車会社にてエンジニアとして自動運転のAI開発などに従事。その後ニューラルオプトに参画し、クライアントのAI開発やSEOツールの開発、RAGなどベクトル検索を活用した検索エンジン開発なども行っています。
■少しでもAI・システム開発やPoCに興味があれば、まずはお気軽にご相談ください。目的・課題を伺ったうえで、弊社から手堅く進める方法・お見積りをお伝えさせていただきます。
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ナースコール・院内コミュニケーションを統合した事例
医療現場での情報伝達は患者の安全と治療の質に直結する重要な要素です。従来のPHSや固定電話中心のシステムでは、連絡チャネルが分散し非効率が生じがちでした。以下では、スマートフォンやICT機器を活用して院内コミュニケーションを統合し、大幅な業務効率化を実現した4つの事例をご紹介します。
- 大阪けいさつ病院:職員1人1台のiPhone配備で内線・チャット・ナースコールを統合
- 自治医科大学附属さいたま医療センター:通信機器活用で情報伝達にかかる30分/日を削減
- NTT東日本関東病院:Interactive White Boardで部門間連携の電話を削減
- 恵寿総合病院:スマホ一人一台体制で内線化とナースコール統合を実現
大阪けいさつ病院が1人1台iPhone配備でスマートホスピタルを実現した事例

iPhone導入による医療DXの推進について – 大阪けいさつ病院|大阪国際メディカル&サイエンスセンター
| 項目名 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | 大阪けいさつ病院(大阪国際メディカル&サイエンスセンター) |
| 業界 | 病院(総合) |
| ビフォー | 従来PHS中心。内線・チーム連絡・ナースコール・スタットコール・カルテ閲覧などが分断 |
| アフター | iPhoneを職員1人1台(約1,800台)配備し、内線/チャット/ビデオ会議/カルテ/ナースコール/スタットコール/位置情報を統合運用 |
大阪けいさつ病院では、新病院開院を機にスマートホスピタル構想を推進しました。従来のPHS中心のシステムでは、内線、チーム連絡、ナースコール、スタットコール、カルテ閲覧などの機能が分断されており、応答遅延や重複作業が課題となっていました。
この課題を解決するため、同院では国内初の規模となる職員1人1台のiPhone配備を実施。約1,800台のiPhoneを導入し、FMC(固定移動融合)技術やMicrosoft 365/Intuneを活用して、すべてのコミュニケーション機能を統合しました。
導入により、内線通話、チャット、ビデオ会議、電子カルテ閲覧、ナースコール対応、スタットコール、位置情報確認などがすべて一台のスマートフォンで対応可能に。
業務のシームレス化が実現され、応答速度の向上と連携の効率化を達成しました。モバイル統合による包括的なコミュニケーション環境の構築事例として、多くの医療機関から注目を集めています。
ただし、医療現場へのスマートフォン大規模導入にあたっては、セキュリティ面の課題も認識する必要があります。厚生労働省は看護業務のICT利活用を推進する一方で、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(第6.0版、2023年)において、モバイル端末の管理やアクセス制御、紛失・盗難対策について厳格な要件を設けています。
出典: 医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版/厚生労働省/2023年5月
同院の事例がMDM(Microsoft Intune)やFMC技術を採用して統合管理を実現している点は、こうしたセキュリティ要件に対する実践的な回答であり、利便性と安全性の両立モデルとして評価できます。
自治医科大学附属さいたま医療センターが通信機器で探索時間を削減した事例

業務量調査の実施から見えた業務負担とその改善策-チーム活動を円滑にする通信機器の活用- – 公益社団法人日本看護協会 | Japanese Nursing Association
| 項目名 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | 自治医科大学附属さいたま医療センター(628床) |
| 業界 | 病院(急性期) |
| ビフォー | 情報伝達のために看護師を探す時間が1日約30分発生するなど、連絡・共有の非効率があった |
| アフター | 複数看護師へ同時にリアルタイム伝達できるICT機器を活用し、情報伝達効率化と業務負担軽減。終礼時間の確保も実現 |
自治医科大学附属さいたま医療センターでは、情報伝達の非効率性が看護師の業務負担増加の要因となっていました。特に、必要な情報を伝達するために担当看護師を探し回る時間が1日約30分も発生しており、直接的な患者ケア時間を圧迫していました。
この課題に対し、同院では複数の看護師に同時にリアルタイムで情報伝達できるICT機器を導入。シンプルな機能に特化した通信機器を選択することで、年齢を問わず多世代の職員に運用が定着しやすい環境を構築しました。
導入の結果、1日30分かかっていた探索時間が大幅に削減され、その時間を終礼やチーム活動の振り返りに充てることが可能になりました。同報・リアルタイム伝達により情報共有の確実性も向上し、多重業務を避けるシンプルな設計が功を奏した事例として評価されています。
NTT東日本関東病院がInteractive White Boardで部門間連携を可視化した事例

| 項目名 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | 東日本電信電話株式会社 NTT東日本関東病院(594床) |
| 業界 | 病院(急性期) |
| ビフォー | 病棟と内視鏡センター間で頻回の電話連絡と進捗の見えにくさが負担 |
| アフター | Interactive White Boardで進捗を可視化し、電話連絡を削減。効率性・正確性・医療安全が向上 |
NTT東日本関東病院では、病棟と内視鏡センター間の連携において、頻回の電話連絡と進捗状況の見えにくさが課題となっていました。検査部門との連携は多くの医療機関で共通する課題であり、電話ベースの連絡では取り違えや齟齬のリスク、工数増加を招きやすい状況でした。
そこで同院では、RICOH Interactive White Board(IWB)を導入し、病棟と内視鏡センター間の進捗状況を一枚のボードで可視化するシステムを構築しました。
この取り組みにより、従来必要だった頻回の電話連絡が大幅に削減され、全体の進捗状況が一目で把握できるようになりました。優先順位の調整も容易になり、情報の正確性向上により医療安全にも貢献。「電話に頼らない進捗共有」を実現し、連絡起因のムダを効果的に排除した事例として、他の医療機関への普及可能性も高く評価されています。
恵寿総合病院がスマホ統合でPBXダウンサイジングを実現した事例

導入事例 社会医療法人財団董仙会 董仙会本部 恵寿総合病院 | NTTドコモビジネス 法人のお客さま
| 項目名 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | 社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 |
| 業界 | 病院(地域中核) |
| ビフォー | PHS中心の連絡で、内線番号変更・端末故障対応など運用稼働が大。院内に内線がつながりにくい場所も |
| アフター | 1人1台スマホ+「オフィスリンク」で内線化。ナースコールやチャット、電子カルテ等をスマホに統合し業務効率が向上 |
恵寿総合病院では、PHS終息問題と固定電話維持の負担、内線管理の手間が重要な課題となっていました。従来システムでは内線番号の変更や端末故障への対応など運用稼働が大きく、院内に内線がつながりにくい場所も存在していました。
この課題を解決するため、同院では1人1台のスマートフォンと「オフィスリンク」を組み合わせた内線システムを構築。約520台のスマートフォンを職域別に機能配賦し、ナースコール連携、スタットコール、チャット、電子カルテ閲覧まで統合運用を実現しました。
導入により、PBXのダウンサイジングと既存ナースコールとの連携、院外VPNアクセスまで含めて一晩での移行を完了。どこでも内線通話が可能なロケーションフリー環境を構築し、地震などの非常時にも運用継続できる実績を残しました。
情報共有と安否確認の両面で威力を発揮した、地域中核病院における統合コミュニケーション事例として注目されています。
患者教育・説明のデジタル化で満足度を高めた事例
患者への説明や教育は看護の重要な役割の一つですが、従来の紙媒体や対面中心のアプローチでは時間的制約や情報更新の負担が課題となっていました。以下では、スマートフォンを活用した患者教育により業務効率化と患者満足度向上を同時に実現した事例をご紹介します。
- 聖路加国際病院:スマホアプリで妊婦教育をデジタル化し、業務時間150~180時間/年削減
聖路加国際病院がスマホ活用で妊婦教育を革新した事例

| 項目名 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | 学校法人聖路加国際大学 聖路加国際病院(520床/職員2,228名、看護職員975名) |
| 業界 | 病院(周産期を含む総合) |
| ビフォー | 周産期の説明・予約業務、紙テキスト更新や問い合わせ対応が人的負担 |
| アフター | スマホアプリで説明・情報提供+予約を運用し、業務時間150~180時間/年削減、印刷費約45万円/年削減、妊婦の利便性97.4% |
聖路加国際病院では、周産期における患者教育と情報提供の効率化が重要な課題でした。従来の紙媒体中心のアプローチでは、テキストの更新作業、来院での説明対応、電話での問い合わせ対応などが看護師の負担となっており、特にコロナ禍では情報発信にも制約が生じていました。
この課題を解決するため、同院ではスマートフォンアプリを活用した妊婦への説明と情報提供システムを構築。動画配信(3~4分/回)による説明コンテンツの提供、予約システムとの連携、「病院からのお知らせ」機能などを統合したデジタルプラットフォームを自院で開発・運用しました。
導入により、年間150~180時間の業務時間削減と約45万円の印刷費削減を実現。さらに重要な成果として、妊婦の利便性が97.4%、理解度が96.1%という高い評価を獲得しました。患者向けコンテンツの運用を内製化することで費用を抑制しつつ、高い患者満足度を両立した革新的な取り組みとして、周産期医療分野で注目を集めています。
訪問看護の業務を効率化した事例
訪問看護は在宅医療の要となる分野ですが、移動制約や情報連携の課題が業務効率に大きく影響します。以下では、ICT技術や携帯型医療機器を活用して訪問看護の質と効率を向上させた3つの事例をご紹介します。
- 広島県看護協会 訪問看護ステーション:「使える」ICT運用と新規ICT導入で業務効率化
- 訪問看護ステーションフレンズ:携帯型エコーとICT連携で緊急訪問・電話相談を減少
- 訪問看護ステーション騏驎:携帯型エコーによる可視化で早期介入を実現
広島県看護協会が運用定着重視のICT活用で効率化を実現した事例

「使える」ICTの運用と「新たな」ICTの導入で訪問看護ステーションの業務をもっと効率化する! – 公益社団法人日本看護協会 | Japanese Nursing Association
| 項目名 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | 公益社団法人広島県看護協会 訪問看護ステーション(従業員112名、看護職員78名) |
| 業界 | 訪問看護ステーション(在宅) |
| ビフォー | 訪問看護における勤務環境と業務運用の非効率(紙・分断ツール等) |
| アフター | 既存ICTの「使える運用」+新規ICT導入で業務効率化と勤務環境改善を推進(奨励賞) |
広島県看護協会の訪問看護ステーションでは、在宅現場特有の情報連携、記録、スケジュール運用の負荷が課題となっていました。紙ベースの運用や分断されたツールの使用により、業務効率と勤務環境の改善が急務でした。
同協会では、単なる新規ICT導入ではなく、既存ICTの「使える運用」の見直しと新規ICTの導入を組み合わせたアプローチを採用。運用定着に主眼を置いた再現性の高いモデルの構築を重視しました。
この取り組みにより、タブレット等ICT機器と電子化運用を組み合わせた効率的なワークフローを確立。勤務環境の改善と業務効率化を同時に実現し、在宅現場での普及可能性が高い実装モデルとして評価されています。
導入後の運用定着とナレッジ化に焦点を当てた取り組みは、他の訪問看護ステーションにとっても参考になる先進事例となっています。
訪問看護ステーションフレンズが携帯型エコーで緊急対応を削減した事例

訪問看護におけるエコーによるアセスメント導入とICTを使った医師との連携 – 公益社団法人日本看護協会 | Japanese Nursing Association
| 項目名 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | 株式会社トラントユイット 訪問看護ステーションフレンズ |
| 業界 | 訪問看護ステーション |
| ビフォー | 遠隔地域訪問により多職種連携の共有が遅延、フィジカルアセスメントのみでは根拠把握が不十分な場面も |
| アフター | 携帯型エコーで嚥下・排泄・褥瘡などをその場で可視化し、地域医療情報システムで医師へ即時共有。緊急訪問・電話相談が減少 |
訪問看護ステーションフレンズでは、遠隔地域での訪問看護において、多職種連携の共有遅延と診断根拠の可視化不足が課題となっていました。在宅は移動・連絡の制約が大きく、従来のフィジカルアセスメントのみでは根拠把握が不十分な場面も多く発生していました。
この課題を解決するため、同ステーションでは携帯型エコーを導入し、嚥下、排泄、褥瘡などの状況をその場で可視化するシステムを構築。非侵襲・短時間のエコー検査を在宅ケアのアセスメントに組み込み、地域医療情報システムを通じて医師への即時共有を実現しました。
導入により、画像による根拠の可視化が可能となり、その場でケアプランに反映できる体制を確立。結果として緊急訪問や電話相談の減少という具体的な運用効果を達成し、早期介入による在宅医療の質向上を実現しました。2020年度の最優秀賞を受賞した先進的な取り組みとして、訪問看護分野で広く注目されています。
訪問看護ステーション騏驎が小規模組織でもエコー活用を実現した事例

訪問看護におけるエコーによるアセスメント導入とICTを使った医師との連携 – 公益社団法人日本看護協会 | Japanese Nursing Association
| 項目名 | 内容 |
|---|---|
| 企業名 | 社会福祉法人髙陽会 訪問看護ステーション騏驎 |
| 業界 | 訪問看護ステーション |
| ビフォー | 在宅現場で身体所見の根拠が弱く、連携の即時性にも課題。医師への報告は時間差が発生しがち |
| アフター | 携帯型エコーで嚥下・褥瘡・排泄等をその場で可視化し、ICTで画像を医師へ即共有。早期介入と緊急対応の抑制に寄与 |
訪問看護ステーション騏驎では、従業員10名・看護職9名という小規模組織でありながら、在宅現場での診断根拠の可視化と即時連携の実現に取り組みました。在宅医療では移動制約と情報遅延が避けられない課題であり、意思決定の遅れが再診や緊急訪問の増加につながることが懸念されていました。
同ステーションでは、携帯型エコーとICT画像共有システムを組み合わせたソリューションを導入。嚥下、褥瘡、排泄等の状況をその場で可視化し、医師へ即時共有できる体制を構築しました。
この取り組みにより、看護判断の精度が向上し、医師の指示を迅速に得ることが可能になりました。結果として早期介入が実現し、緊急対応の減少という運用効果を達成。小規模組織でも運用可能なモデルとして、地域の訪問看護ステーションにとって実現可能性の高い事例として評価されています。
現場に根付くDXを実現するポイント
看護DXの成功は、優れたシステムを導入するだけでは達成できません。現場のスタッフが日常業務の中で自然に活用し、継続的に効果を生み出せる環境を構築することが重要です。以下では、現場に根付くDXを実現するための5つの重要なポイントをご紹介します。

現場スタッフが感じる課題を具体的に言語化する
看護DXの成功には、現場スタッフが日々感じている課題を正確に把握し、言語化することが出発点となります。管理者が想定する課題と現場の実感には往々にして乖離があるため、現場に足を運んだ観察が不可欠です。
効果的な課題抽出の手法として、タイムスタディ(時間測定調査)、現場での業務観察、スタッフとのハドル(短時間の対話)などがあります。これらの手法により、「記録作業で患者のそばを離れる時間が長い」「急変時の連絡に時間がかかる」といった具体的なペインポイントを可視化できます。
課題の言語化では、「効率が悪い」「負担が大きい」といった曖昧な表現ではなく、「1日30分の記録時間短縮が必要」「連絡待ち時間を5分以内にしたい」という形で定量化することが重要です。
現場の声を丁寧に聞き取り、解決すべき課題の優先順位を明確にすることで、的確なソリューション選択が可能になります。
例外処理まで含めた業務フローを標準化する
看護DXシステムが現場に定着するためには、日常業務のすべての場面に対応できる業務フローの標準化が必要です。通常業務だけでなく、緊急時や例外的な状況での対応手順、各職種間の責任境界まで明示することが重要になります。
業務フロー標準化では、「誰が」「いつ」「何を」「どのように」行うかを具体的に定義。例えば、ナースコールシステムの場合、通常の呼び出し対応から、システム障害時の代替手段、夜間・休日の対応体制まで包括的に整備します。
また、新人スタッフでも迷わずに対応できるよう、チェックリストやマニュアルの充実も欠かせません。業務フローの標準化により、スタッフ間の対応のばらつきを防ぎ、システム活用の効果を最大化できます。
定期的な見直しと改善により、現場の実情に合った実用的な運用ルールを維持することが成功の鍵となります。
関係部門すべてとの合意形成を丁寧に行う
看護DXの導入は看護部門だけの課題ではなく、医師、事務部門、情報システム部門など、病院全体に影響を与える取り組みです。関係するすべての部門との事前の合意形成が、スムーズな導入と継続的な運用の基盤となります。
合意形成のプロセスでは、各部門の業務への影響、期待される効果、必要な協力事項を明確に整理することが重要。医師には診療業務への影響と連携方法を、事務部門には予算と運用体制を、情報システム部門には技術要件とセキュリティ対策を説明します。
また、導入後の運用責任や問題が発生した際の対応体制についても、事前に明確化しておく必要があります。定期的な進捗共有会議の開催や、各部門からの代表者による推進委員会の設置など、継続的なコミュニケーション体制を構築しましょう。
全部門が当事者意識を持って取り組める環境を整備することで、組織全体でのDX推進が実現します。
小規模な実証実験から段階的に展開する
大規模なシステム導入で失敗するリスクを最小化するためには、小規模なPoC(Proof of Concept:実証実験)から開始し、段階的に展開範囲を拡大することが有効です。まずは限定的な部門や機能での試行により、実際の効果と課題を検証します。
実証実験では、明確な評価指標と撤退条件を事前に設定することが重要。「3ヶ月で記録時間20%短縮を達成できなければ中止」といった客観的な判断基準により、継続・拡大の可否を冷静に評価できます。
段階展開のメリットは、初期段階で発見した課題を次の展開に活かせることです。操作性の改善、業務フローの調整、スタッフ教育の充実など、実証実験で得られた知見を基に改善を重ねることで、本格導入時の成功確率を大幅に向上させることができます。
厚生労働省も、看護業務の効率化に関する先駆的な取り組み(申し送り時間短縮、AI活用、自動記録等)を全国から収集・選定し、汎用性が高く効果のある事例を広く周知する事業を実施しています。
出典: 看護師等(看護職員)の確保を巡る状況に関する参考資料/厚生労働省/2023年
本記事で紹介した各事例も、こうした国の施策と方向性が一致した取り組みであり、段階的展開による成功モデルの構築は、他施設への横展開を見据えた上でも重要な設計思想です。
焦らずに着実なステップを踏むことが、長期的な成功につながります。
セキュリティと法令遵守を確実に担保する
医療分野でのDX推進では、患者情報の保護と医療法令の遵守が絶対条件となります。セキュリティ対策では、アクセス権限の管理、操作ログの記録、データの暗号化、バックアップ体制の整備など、多層的な防御策が必要です。
個人情報保護法や医療法に加え、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」への適合確認も欠かせません。システムの設計段階から法令要件を組み込み、定期的な監査により継続的な適合性を担保する体制を構築します。
また、スタッフへのセキュリティ教育も重要な要素。パスワード管理、端末の適切な取り扱い、情報漏洩防止のための行動指針などを徹底し、人的リスクを最小化することが必要です。
実務上、このガイドライン対応で特に見落とされやすいのが「クラウドサービスを使う場合の責任分界点」の確認です。「ベンダーがセキュリティ対応してくれているはず」という前提で進めてしまい、後から「病院側でも○○の対応が必要だった」と発覚するケースがあります。契約前に「どこまでがベンダーの責任範囲で、どこからが院内の責任か」を書面で明確化しておくことが、トラブルを防ぐうえで最も重要な一手です。


株式会社ニューラルオプト 営業部部長 / DX事業部部長
古谷優輝
東京農工大学大学院 工学府 応用化学専攻 修士課程を修了後、外資系自動車会社にてエンジニアとして自動運転のAI開発などに従事。その後ニューラルオプトに参画し、クライアントのAI開発やSEOツールの開発、RAGなどベクトル検索を活用した検索エンジン開発なども行っています。
看護DXならニューラルオプト
看護DXの導入を成功させるためには、技術力だけでなく現場の課題を深く理解した総合的な支援が不可欠です。株式会社ニューラルオプトは、世界的生成AIであるChatGPTの開発に携わるAI開発企業として、技術的な専門性と課題解決コンサルティングの両方を提供します。
当社の最大の特徴は、「失敗リスクを最小化する」というコンセプトのもと、課題起点での解決策提案から組織への定着支援、運用改善まで一貫してサポートできることです。単なるシステム開発の受託ではなく、看護現場の具体的な課題をヒアリングし、データサイエンスの知見を活かした最適なソリューションを提案いたします。
ECサイト「eBay」の価格自動設定AIや手書き文字のAI認識・要約システムなど、実用性の高いAIシステムの開発実績を活かし、看護記録の効率化、転倒予防AI、コミュニケーション統合システムなど、現場に根付く看護DXを実現します。
課題解決から相談したい、失敗リスクを抑えて確実な効果を得たいとお考えの医療機関様は、ぜひご相談ください。







